バーチャルアナログ音源

バーチャルアナログ音源とは

バーチャルアナログ音源（Virtual Analog Synthesis）は、デジタル信号処理を用いてアナログシンセサイザーの動作をシミュレーションする音源です。物理モデル音源とは異なり、アナログシンセサイザーの基本的な構成要素（オシレーター、フィルター、アンプ）をデジタル上で再現します。これにより、アナログシンセサイザー特有の音色や操作感をデジタル環境で実現できます。

定義

バーチャルアナログ音源は、以下の要素を備えたシンセサイザーと定義できます。

オシレーター、フィルター、アンプの3つのセクション: アナログシンセサイザーの基本構成を再現します。
基本波形: オシレーターは、正弦波、鋸歯状波、三角波、矩形波といった単純な数学的関数で生成できる波形をベースにします。

特に、矩形波のパルス幅を連続的に変化させる機能は、バーチャルアナログ音源とPCM音源を区別する重要なポイントです。PCM音源では、あらかじめ録音された固定のパルス幅の矩形波を使用するため、連続的な変化はできません。

基本波形はフーリエ級数で近似できますが、演算量やエイリアスノイズを考慮し、アンチエイリアス波形やPCM波形が用いられることもあります。

バーチャルアナログ音源は、アナログシンセサイザーの操作感を再現するため、多くのツマミやスライダーを備えていることが多いです。しかし、近年では、パラメータ選択ボタンと最小限のツマミで操作するシンプルなデザインの製品も登場しています。

概要

アナログシンセサイザーは、外部環境（電圧や温度）の影響で音程が変化することがあります。しかし、バーチャルアナログ音源はデジタル技術で動作するため、外部環境の影響を受けません。また、アナログシンセサイザーの部品は経年劣化することがありますが、バーチャルアナログ音源ではそのような問題は少ないです。そのため、メンテナンスが容易で可搬性にも優れています。

初期のバーチャルアナログ音源は、DSPの性能やアルゴリズムの制約から、デジタル特有の音やエイリアスノイズが発生することがありました。しかし、2000年代以降の技術進歩により、アナログシンセサイザーとの音色の差は非常に小さくなっています。

最大同時発音数については、物理モデル音源と比較して多い傾向があり、多くの製品で5〜20音の発音に対応しています。また、価格も手頃になり、プロだけでなくアマチュアの音楽制作者にも広く利用されています。

ソフトウェア・シンセサイザーも、PCの処理速度向上を背景に普及しています。VSTインストゥルメントなどのプラグインシンセサイザーとして、手軽に利用できるようになりました。これらのプラグインは、簡単なものから過去の名機を再現したものまで、様々なバリエーションがあります。

現在までに搭載された製品

バーチャルアナログ音源を搭載した主な製品には、以下のものがあります。

CLAVIA Nord Lead シリーズ
ACCESS Virus シリーズ
Roland JP-8000, GAIA SH-01, SH-32
KORG MS2000, MicroKORG

近年では、バーチャルアナログ音源とPCM音源を組み合わせた製品も登場しています。例えば、Roland V-Synth GT、KORG Radias, KingKORGなどがあります。これらの製品は、アナログシンセサイザーの基本波形に加えて複雑な波形を合成したり、PCM波形と組み合わせて使用したりすることができます。

メーカー毎の固有名称

バーチャルアナログ音源は、各シンセサイザーメーカーが独自の名称で呼ぶことが多いです。以下にいくつかの例を紹介します。

ヤマハ

AN音源 (Analog Physical Modeling): AN1xやAN200、PLG150-ANに搭載されています。VCO、VCF、VCAなどのユニットを持ち、パルス波の幅を調整したり、鋸歯状波でもパルス幅を変調できます。また、Edgeパラメータで正弦波を作り出すことも可能です。近年では、reface CSでパラメータを簡略化したAN音源も搭載されています。

ローランド

SuperNATURALトーン: JUPITER-80やINTEGRA-7、JD-XA、FA-08などに搭載されています。OSC、Filter、Ampなどのセクションで構成され、Partialと呼ばれる音の最小単位を重ねて音色を合成します。Super-Saw波形や450のPCM波形も利用可能です。WaveShaperやRingModulationなどの機能も備えています。
ACBテクノロジー (Analog Circuit Behavior): AIRAシリーズやBoutiqueシリーズに採用されているアナログモデリング音源です。抵抗、コンデンサー、トランジスターなどのアナログパーツを個別にモデリングします。
Synth-EX音源: AX-Edgeに採用されているPCMとアナログモデリングのハイブリッド音源です。Bluetoothで接続した携帯端末でパラメータを編集できます。

コルグ

MMT音源 (Multiple Modeling Technology): ElectribeMX、R3、Radiasなどに搭載されています。製品によって仕様が異なり、RadiasはPCM波形を搭載していますが、R3には含まれていません。特徴的なのは、基本波形に加えてフォルマントオシレーターを持っている点です。
XMT音源 (eXpanded Modeling Technology): KingKORGに搭載されたバーチャルアナログ音源です。ヴィンテージシンセサイザーの特性を再現し、様々な名機のサウンドを再現できます。また、真空管を用いたアナログオーバードライブを備えています。
MOSS音源: Standardオシレータは基本波形に加え、パルス幅を変化させることができます。マルチモードフィルタはローパス、ハイパス、バンドパスに加え、バンドリジェクト、デュアルバンドパスフィルタも備えています。MOSS音源には物理モデル音源やFM音源も含まれています。
AL-1音源 (ハイ・クオリティ・アナログ・モデリング): MOSS音源の発展型で、エイリアスノイズを排除した波形を使用します。DualSawなどの波形も用意されています。OASISやKRONOSシリーズに搭載されています。

Arturia

TAE (True Analog Emulation): アナログシンセサイザーの音色、波形、チューニング、その他の特性を再現する技術で、主にソフトウェアシンセサイザーとして提供されます。

まとめ

バーチャルアナログ音源は、デジタル技術の進歩によりアナログシンセサイザーの音を忠実に再現できるようになりました。ソフトウェア・シンセサイザーとしても利用可能になり、プロの音楽制作現場からアマチュアの音楽愛好家まで、幅広い層に利用されています。各メーカーの独自の技術やアプローチによって、様々な音色や機能が提供されており、今後も音楽制作に欠かせない技術として発展していくでしょう。

関連項目

音源
* 音源モジュール

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