バーニス・ペトキア

アメリカ合衆国の傑出したソングライター、バーニス・ペトキア（Bernice Petkere, 1901年 8月11日生 - 2000年 1月7日没）は、その卓越した作曲能力から、同時代の偉大な音楽家アーヴィング・バーリンによって「ティンパンアレーの女王」と称賛されました。20世紀初頭に生まれ、ほぼ一世紀にわたる生涯の中で、彼女は数々の普遍的なメロディーを生み出し、その作品は後世のアーティストたちによって歌い継がれています。

イリノイ州シカゴで生を受けたペトキアは、幼少期から舞台芸術に親しみ、ボードヴィルの世界を経験しました。この初期の経験が、後の彼女の音楽活動にどのように影響を与えたかは定かではありませんが、大衆を楽しませるエンターテイメントの感覚は、その後のヒット曲作りに活かされたのかもしれません。

作曲家としてのキャリアは、1931年に発表された「Starlight (Help Me Find The One I Love)」によって本格的に始まりました。この曲は、当時の人気歌手ビング・クロスビーによって歌唱され、彼女の最初の出版作品として世に送り出されました。続く数年間で、彼女は多くの記憶に残る楽曲を発表し、その才能を開花させていきます。

彼女の代表作の一つに挙げられるのが「Lullaby of the Leaves」です。また、特定のラジオ局のテーマ曲を手がけるなど、幅広い分野で作曲活動を展開しました。しかし、何よりも彼女の名を不朽のものとしたのは、1933年に発表された名曲「Close Your Eyes」でしょう。このバラードは、発表されるやいなや多くの歌手に歌われ、時代やジャンルを超えて数えきれないほどのカバーバージョンが生まれました。発表当初はルース・エッティングやアル・ボウリーといった当時の人気歌手が歌い、その後もトニー・ベネット、エラ・フィッツジェラルド、ペギー・リー、ナンシー・ウィルソンといったジャズやポップスの偉大なボーカリストたちに歌い継がれました。さらに、カート・エリングやクイーン・ラティファといった現代のアーティスト、あるいはケニー・バレル、ミルト・ジャクソン、アート・ブレイキーといったインストゥルメンタリストたちによっても演奏されるなど、その解釈は多岐にわたります。この曲の文化的影響は大きく、日本の作家である三島由紀夫の短編小説『月』の中でも言及されていることは特筆すべき点です。

「Close Your Eyes」以外にも、ペトキアは「The Lady I Love」、「My River Home」、「By a Rippling Stream」、「Stay Out of My Dreams」、「A Mile a Minute」といった優れた楽曲を発表しています。また、1939年のMGM映画『The Ice Follies of 1939』では、ジョーン・クロフォード主演のもと、主題歌「It's All So New to Me」を提供しました。これらの作品を通じて、彼女はブロードウェイやハリウッドといった当時の主要な音楽・エンターテイメント産業において、その才能を発揮しました。

作曲家としての権利保護や業界発展にも貢献しており、アメリカ作曲家・作家・出版者協会（ASCAP）や、後に作家の権利擁護団体となるアメリカ作家ギルド（Writers Guild of America）の会員でもありました。彼女の作品は、ヴィック・ダモン、ベティ・カーター、ハリー・ベラフォンテ、さらにはインストゥルメンタル・グループであるベンチャーズなど、実に多様なアーティストによって録音され、その普遍的なメロディーと情感豊かな歌詞は多くの人々に愛され続けました。

バーニス・ペトキアは、2000年 1月7日、ロサンゼルスにて98歳の生涯を閉じました。長きにわたるキャリアを通じて、彼女は20世紀アメリカポピュラー音楽において、特に心に響くバラードやメロディーメーカーとして重要な地位を確立しました。「ティンパンアレーの女王」として称えられたその功績は、今なお多くの音楽ファンやアーティストに記憶されています。

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