パエストゥム

パエストゥム：古代ギリシャ・ローマ文明の遺産

イタリア南部、カンパーニア州サレルノ県にあるパエストゥムは、古代ギリシャと古代ローマの遺跡が残る都市です。紀元前6世紀頃にギリシャ人が建設したポセイドニアが起源とされ、その歴史は長く複雑です。1998年にはユネスコの世界遺産に登録され、世界中から観光客が訪れる歴史的な場所となっています。

ポセイドニアからパエストゥムへ

パエストゥムという地名は、古代ギリシャ語で「ポセイドニア（Ποσειδωνία）」と呼ばれていた都市の名に由来します。これは海神ポセイドーンに由来する名称で、この都市の豊かな海洋資源と関係があったと考えられます。建設時期は正確には分かっていませんが、考古学的調査から紀元前6世紀頃と推定されています。建設者については、ドーリア人、アカイア人、トロイゼーン人など諸説ありますが、いずれもギリシャ系民族です。

ポセイドニアは繁栄を謳歌しましたが、後にルカニア人に征服されました。その後、ローマの支配下に入り、パエストゥム、あるいはペストゥムと呼ばれるようになりました。ローマ時代には独自の貨幣鋳造権を与えられるなど、重要な都市として栄えました。しかし、西暦400年頃には司教区となり、その後は徐々に衰退していきました。

衰退の要因

パエストゥムの衰退には、いくつかの要因が考えられています。まず、森林破壊による洪水の多発とマラリアの蔓延です。船舶建造のための木材伐採が激しかったことで、沿岸部が湿地化し、マラリアが流行しました。さらに、サラセン人の海賊襲撃も大きな打撃となりました。これらの要因により、人々は沿岸部から数キロ離れた高台に移住し、パエストゥムは忘れ去られていきました。

18世紀の再発見

長い間忘れられていたパエストゥムですが、18世紀になって再び注目を集めました。これは、ポンペイ遺跡の再発見と相まって、古代ローマ文明への関心の高まりが背景にあります。発掘調査によって、古代都市の壮大な遺跡が次々と明らかになり、その歴史的価値が再認識されました。

壮大な神殿

パエストゥムの最大の特徴は、現存する3つのドーリス式神殿です。これらの神殿は、その保存状態の良さから、古代ギリシャ建築の貴重な資料となっています。中でも、ヘーラー神殿IIは、その巨大さと壮麗さで知られています。この神殿は、紀元前550年頃に建設されたと推定されており、当時の人々の高度な技術力を示しています。

これらの神殿の配置にも興味深い特徴があります。ヘーラー神殿とアテーナー神殿の方向は、都市の格子状の街路とは平行ではありません。これは、神殿が周囲の地形や自然環境を考慮して配置されたことを示唆しています。

出土品と今後の研究

パエストゥムからは、数多くの出土品が発見されています。陶器、彫刻、建築材料など、多様な遺物が古代都市の生活や文化を物語っています。これらの遺物は、博物館などで展示され、多くの研究者によって分析されています。

パエストゥムの研究は、現在も進行中です。今後の発掘調査や研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

参考文献

Cerchiai, Luca; Jannelli, Lorena; Longo, Fausto, eds (2004). The Greek Cities of Magna Graecia and Sicily. Translated from Italian by the J. Paul Getty Trust. Los Angeles, CA: Getty Publications. ISBN 978-0-89236-751-1.
Ceserani, Giovanna, Italy's Lost Greece: Magna Graecia and the Making of Modern Archaeology, 2012, Oxford University Press, ISBN 978-0-19-987679-2
Wilton-Ely, John, The Mind and Art of Giovanni Battista Piranesi*, 1978, Thames & Hudson, London, ISBN 0-500-09122-6

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