パガニョッティ三連祭壇画

ハンス・メムリンク『パガニョッティ三連祭壇画』：フランドルとイタリアの融合

ハンス・メムリンクによる『パガニョッティ三連祭壇画』（Trittico di Pagagnotti）は、初期フランドル派絵画の最高傑作の一つとして知られています。1480年頃制作されたこの作品は、現在、中央パネルがフィレンツェのウフィツィ美術館、左右の翼パネルがロンドン・ナショナル・ギャラリーに別々に所蔵されています。

作品の内容

中央パネルには、聖母マリアが幼子イエスを抱き、二人の天使に囲まれた聖母子像が描かれています。聖母と聖子は、アーチ型の空間の中に配置され、背景にはイタリア風の風景と建物が臨めます。

左翼パネルには洗礼者聖ヨハネが、その象徴である子羊と共に描かれ、右翼パネルには聖ラウレンティウスが書物と拷問具と共に描かれています。聖人たちは、ゴシック様式の建築的枠組みの中に配置されています。

両翼パネルの裏側には、暗い夜空の下、9羽のツルが描かれています。これは、15世紀のネーデルラント絵画としては異例で、ツルの群れは警備の象徴として解釈されています。この裏側の絵は、日没または日の出の風景で、暗い木々と、灰色からピンク色に変化する空が表現されています。ツルの群れは、メムリンク自身の手によるものか、工房の助手たちの手によるものか、議論が続いています。

イタリア・ルネサンス様式との融合

この祭壇画は、フランドル絵画の伝統とイタリア・ルネサンス様式の要素が見事に融合している点が特徴です。中央パネルの聖母子像の背後にある柱は、ソロモン円柱を思わせる様式で金で鍍金されており、柱頭には「ライオンを殺すサムソン」と「アベルを殺すカイン」という彫刻が施されています。また、聖母子の頭上には精緻な花輪とプットがあり、これらはイタリア美術の影響を示唆しています。

背景の風景も、イタリアの画家たちによって模倣されており、フィリッポ・リッピやフラ・バルトロメオらの作品にも類似した描写が見られます。特に、中央パネルの水車は、フィリッピノ・リッピの『聖パウロと聖フレディアーノ』やフラ・バルトロメオの『聖母子』に複製されています。

委嘱とパガニョッティ家

この作品は、フィレンツェの聖職者ベネデット・パガニョッティ司教のために制作されたと推測されています。美術史家のミヒャエル・ロールマンは、両翼パネルの紋章とツルの図像から、その所有者を特定しました。パガニョッティ家はメディチ家と親しい関係にあったとされ、15世紀には初期ネーデルラント絵画がイタリアの収集家から非常に高い需要があったことから、この委嘱もその時代の背景を反映していると考えられます。

1995年にロールマンは、ウフィツィ美術館の中央パネルとロンドン・ナショナル・ギャラリーの両翼パネルが、本来一つの三連祭壇画であったことを確認しました。それは、パネル間のサイズの一致、床のタイルと階段の位置の連続性、そして共通の古代美術的モチーフなどから裏付けられています。

美術史的意義

『パガニョッティ三連祭壇画』は、初期フランドル派絵画とイタリア・ルネサンス美術の相互影響を示す重要な作品です。メムリンクは、ネーデルラント絵画の伝統にイタリア的な要素を巧みに取り入れ、独自の芸術世界を創造しました。この作品は、絵画的、技術的、着想的に優れた力作として高く評価されています。緻密な描写、精緻な細部、そして象徴的なモチーフの組み合わせは、観る者に深い感動を与え続けるでしょう。

参考文献

本文中に記載されている参考文献リストを参照してください。これらの文献は、この作品に関するより詳細な情報、そして初期フランドル派やイタリア・ルネサンス美術に関する知識を深めるために役立ちます。

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