パキスタン正義運動

パキスタン正義運動（Pakistan Tehreek-e-Insaf、略称PTI）は、パキスタンにおける中道派の政治勢力です。その正式名称はウルドゥー語でپاکستان تحريک انصافと表記され、「パキスタン正義のための運動」を意味します。

この党は、クリケット選手として国内外で絶大な人気を誇り、国民的英雄と称されるとともに、慈善活動家としても知られるイムラン・カーン氏によって、1996年4月25日にラホールで設立されました。

パキスタン正義運動は、汚職の根絶、既存体制からの脱却、共同体主義の尊重、そしてイスラームの価値観に基づきつつも現代的なニーズに応える福祉国家の実現などを主要な政策目標として掲げています。党のスタンスは中道穏健派とされますが、長年にわたる既得権益層や政治エスタブリッシュメントに対する批判的な姿勢から、強い反体制政党としての色彩も帯びています。さらに、封建制度の廃止、司法の完全な独立性の確保、中央集権からの脱却による地方への権限移譲、パキスタン軍に対する文民統制の強化なども重要な政策課題としています。一方で、パキスタンの核兵器保有については維持を主張し、対テロ戦争においてはパキスタン国内でのアメリカ軍による活動に反対するなど、パキスタン独自の国益を強く打ち出す民族主義的、あるいはポピュリスト的な側面も持ち合わせています。

創設当初、パキスタン正義運動は議会内で大きな議席を持たない小政党に留まっていました。しかし、2013年に実施された総選挙で、同党は30議席を超える議席を獲得し、国政における存在感を大きく高めることに成功しました。この選挙では、党首のイムラン・カーン氏が、当時の有力政治家であるナワーズ・シャリーフ氏と並び、次期首相候補の一人として広く認知されるようになりましたが、政権を担うまでには至りませんでした。

パキスタンの他の主要政党が特定の政治家一家によって支配されているケースが多い中で、パキスタン正義運動は「特定の一族に牛耳られていない党」であることを強調し、歯に衣着せぬ発言を行うことが多いため、多くの政敵を生む結果となりました。2013年下院総選挙の直後には、選挙の開票結果を巡る混乱が続く中、当時の副党首であったザラ・シャヒド・フセイン氏が何者かによって暗殺されるという悲劇的な事件も発生しています。

パキスタン正義運動の政治的な頂点は、2018年7月25日に行われた総選挙でした。この選挙で、同党は単独政党としてパキスタンの選挙史上最多となる1690万票もの得票を獲得し、圧倒的な最大勢力となりました。選挙後、パキスタン正義運動は他の5つの政党と連立を組み、同年8月18日には党首であるイムラン・カーン氏がパキスタン・イスラーム共和国の首相に就任し、初の政権を樹立しました。

しかし、イムラン・カーン政権は任期を満了することはありませんでした。2022年4月、国会においてカーン首相に対する不信任決議案が可決され、パキスタン正義運動を中心とする連立政権は崩壊しました。その後の政治的混乱の中で、2023年5月には、カーン氏自身が汚職の疑いで当局に身柄を拘束される事態に発展しました。これを受けて、同年12月には、イムラン・カーン氏の法廷弁護士を務めていたゴハル・アリー・カーン氏が、イムラン・カーン氏本人の意向を受けて、パキスタン正義運動の新たな党首に選出されました。

直近の大きな動きとして、2024年2月8日に実施された総選挙が挙げられます。この選挙において、パキスタン正義運動は選挙法で定められている党首選挙などの党内手続きを期日までに完了しなかったとして、選挙管理委員会から政党としての選挙参加資格を剥奪されるという極めて異例の措置を受けました。このため、同党の関係者や候補者は、パキスタン正義運動のシンボルを使用できず、無所属候補として立候補せざるを得ない状況となりました。厳しい制約の中で行われた選挙にも関わらず、パキスタン正義運動系の無所属候補は、国民議会の全264議席中93議席を獲得し、単独勢力としては最多議席を確保し、議会内における最大勢力の地位を維持しました。しかしながら、主要な競争相手であるパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ・シャリーフ派（PML-N）が75議席、パキスタン人民党（PPP）が54議席を獲得した結果、2月13日にはPML-NとPPPを含む計6党が連立政権を樹立することで合意し、パキスタン正義運動は最大勢力ながらも政権を奪還することはできませんでした。この総選挙は、投票終了直後にパキスタン正義運動とPML-Nの双方が勝利宣言を発表するなど、結果を巡る大きな混乱の中で実施されました。

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