ナワーズ・シャリーフ

ミヤーン・ムハンマド・ナワーズ・シャリーフ

ミヤーン・ムハンマド・ナワーズ・シャリーフ（ウルドゥー語: میاں محمد نواز شریف 、Mian Muhammad Nawaz Sharif、1949年12月25日 - ）は、パキスタンの著名な政治家です。同国首相を3期にわたって務めたほか、パキスタン・ムスリム連盟シャリーフ派の総裁、国防大臣などの要職を歴任しました。日本語圏の報道では「ナワズ・シャリフ」と表記されることもあります。現パキスタン首相であるシャバズ・シャリーフ氏は実弟です。

経歴

シャリーフ氏は、パキスタンのラホールで裕福な実業家一家に生まれました。パンジャーブ大学を卒業後、家業に携わった後に政治の世界へ足を踏み入れます。当時の軍事政権を率いたムハンマド・ジア＝ウル＝ハク大統領の下でパンジャーブ州の州首相を務めるなど、政治家としてのキャリアを積み重ねました。ジア大統領の不慮の事故死後、彼は自身の名を冠したパキスタン・ムスリム連盟シャリーフ派を立ち上げ、1990年には40歳という若さで初めてパキスタン首相の座に就任（第13代）します。

1993年に一旦首相を退任しますが、1997年には再び首相に就任（第15代）し、パキスタン人民党を率いるベーナズィール・ブットー氏との間で激しい政権争いを展開しました。この2度目の政権期である1998年には、隣国インドの核実験に対抗する形で、イスラム圏では初となる核実験を指揮しました。しかし、1999年には当時のパルヴェーズ・ムシャラフ陸軍参謀長による軍事クーデターによって職を追われ、国外への追放を余儀なくされました。

国外追放後も、シャリーフ氏の政治生命は終わりませんでした。2007年9月には亡命先のサウジアラビアから帰国を試みるも、到着直後に逮捕され、再び国外へ送還されるという事態に陥ります。しかし同年11月25日には、再びサウジアラビアからラホールへの帰国を果たし、厳戒態勢が敷かれる中、空港では支持者による盛大な歓迎を受けました。

2013年5月に行われたパキスタン下院総選挙では、パキスタン・ムスリム連盟シャリーフ派を率いて大勝を収めました。その結果、実に14年ぶりとなる3度目の首相就任（第21代）を果たします。

この3度目の政権期では、対外関係にも注力しました。2014年5月26日にはインドのナレンドラ・モディ首相の就任式に出席し、これはパキスタンとインドの独立以来、両国首脳が相手国首相の就任式に直接参加した初の事例となりました。この訪問を機に、インドとの関係改善に意欲を示します。また、2015年には、上海協力機構への正規加盟がインドと共に認められるなど、外交面でも一定の成果を上げました。2016年11月には、中国の一帯一路構想における重要な拠点であるグワーダル港の開港式典に出席するなど、中国との経済協力にも深く関わりました。

しかし、2016年に公表されたパナマ文書に家族の名前が登場したことが、野党などからの強い批判を招きます。パキスタン最高裁判所は2017年4月、連邦捜査局（FIA）と軍の合同捜査チームによる調査を命じました。同年7月28日、最高裁判所は、海外法人に関する資産申告漏れなどを理由に、シャリーフ氏には首相および下院議員としての資格がないと判断し、選挙管理委員会に失職の手続きを進めるよう指示しました。この決定を受けて、シャリーフ氏は即座に首相辞任を表明しました。

首相辞任後、後任として当時パンジャーブ州首相だった実弟のシャバズ・シャリーフ氏を指名しました。これは事実上の「院政」を敷き、自身の政治的影響力を維持しようとする意図があったものとみられています。当初、シャバズ氏はシャリーフ氏の選挙区を引き継いで下院議員補欠選挙に立候補し、その後首相指名選挙に臨む方針でした。しかしその後、シャバズ氏は翌年の総選挙を控え、州首相辞任が党勢の弱体化を招くことを懸念し、首相就任に必要な下院議員補欠選挙への立候補を断念しました。

首相辞任後の同年9月8日、シャリーフ氏は自身やその家族（娘や息子）がタックス・ヘイヴンに設立した会社を通じて英国に複数の不動産を所有していたにもかかわらず、これを資産として申告しなかった汚職の罪で起訴されました。2018年4月13日には、最高裁判所がシャリーフ氏に対する公職からの永久追放を決定し、今後の選挙への立候補も認めないという厳しい判断を下しました。同年7月6日には、汚職罪で一審裁判所から禁逽10年の有罪判決を言い渡される。これを受けて7月13日に英国から帰国した際、空港で逮捕され、収監されました。

同年9月19日、シャリーフ氏が上訴していた禁逽刑判決について、高等裁判所が執行停止を認めたため釈放されました。釈放後、シャリーフ氏は治療などを理由に英国へ渡り、事実上の亡命状態が続きました。しかし、2023年10月19日、高等裁判所はシャリーフ氏が帰国しても捜査当局による逮捕・拘束は行わないとの判断を示しました。この決定を受け、シャリーフ氏は10月21日、約4年ぶりにパキスタンへの帰国を果たしました。今後は、復権を目指し、2024年初頭に行われるとみられる総選挙への出馬が注目されています。そして同年11月29日、高等裁判所は、過去に下された禁逽10年の一審判決を破棄し、無罪判決を言い渡しました。

複数回の失脚と復権、そして汚職を巡る裁判を経て、ナワーズ・シャリーフ氏は依然としてパキスタン政界において大きな影響力を持つ人物であり続けています。

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