パドマ・ブーシャン勲章

パドマ・ブーシャン勲章（Padma Bhushan、ヒンディー語: पद्म भूषण）は、「蓮華勲章」を意味し、インド共和国における民間人向けの栄典としては3番目に高位の勲章です。これは、最高位のバーラト・ラトナ勲章とパドマ・ヴィブーシャン勲章に次ぎ、パドマ・シュリー勲章より上位に位置づけられています。この権威ある勲章は、1954年 1月2日に制定されました。

授与の対象となるのは、「高位の卓越した奉仕」を行った個人です。選考においては、人種、職業、地位、性別といった区別は一切設けられません。医師や科学者を含む「あらゆる分野における奉仕」が授与基準に含まれますが、インド国内の公共事業に従事する政府職員は原則として対象外となります。ただし、医師や科学者はこの例外には該当しません。また、制定当初は認められていなかった没後の追贈も、1955年1月の法令改正によって可能となり、1999年には最初の追贈事例が記録されています。2025年時点までに、追贈38件、民間人以外の受章者101人を含め、合計1341名にこの栄典が授与されています。

受章者の選考プロセスは毎年実施されます。まず、インド首相がパドマ勲章委員会を招集し、通常5月1日から9月15日までの期間に候補者の推薦を受け付けます。推薦は、インド全土の州政府や連邦直轄地政府、中央政府の各省庁、既にバーラト・ラトナやパドマ・ヴィブーシャンを受章した個人、国が認定する優秀な研究機関など、広範な機関・個人から行うことができます。現職の首相、大臣、州知事、国会議員といった公職者や、一般私人からの推薦も可能です。推薦締切後、委員会は候補者を精査し、その答申を首相と大統領に提出して承認を得ます。最終的な受章者の発表は、毎年1月26日の「インドの日」（共和国記念日）に行われます。受章は、『インド官報』に掲載されて初めて公式とみなされます。大統領の権限により受章が取り消されたり復活したりする場合も『官報』で公布され、取り消された受章者は勲章を返納する義務があります。

パドマ・ブーシャン勲章の歴史には、二度にわたる授与中断期間が存在します。一度目は、1977年7月から1980年1月にかけてのモラージ・デサイ政権下で、「無価値で政治利用されている」との理由で停止された期間です。その後、インディラ・ガンディー政権により再開されました。二度目は1992年8月から1995年12月までで、勲章が憲法上の「称号」にあたるかどうかが争点となった公益訴訟が高等裁判所で受理されたことに起因します。また、受章を打診されたものの辞退する者や、受章後に勲章を返却する者も過去に存在します。

この勲章の物理的な仕様は、制定当初の1954年から翌1955年にかけて変更されています。制定当初のメダルは銀製で、直径は約35mmの円形でした。表面には蓮の花が浮き彫りされ、その上下に「パドマ・ブーシャン」とデーヴァナーガリー文字で記されていました。裏面にはインドの国章と「デシュ・サヴァ」の文字が刻まれていました。綬はピンク色で、中央に白い線が2本入ったデザインでした。

1955年1月15日の公布以降、現在の仕様となりました。現行のメダルはブロンズ色を基調とした円形で、直径約44mm、厚さ約3.2mmです。中央部には隆起した円盤（直径約27mm）があり、背景は9つの正方形に区切られたデザインとなっています。縁や外縁にはエンボス加工による突起が施されています。メダル表面中央には引き続き蓮華が浮き彫りされ、その上下にそれぞれ「パドマ」「ブーシャン」とデーヴァナーガリーで記されています。裏面中央にはインドの国章（旧来のデザイン）が配され、その下にはインドの国是である「サーテヤメヴァ・ジャヤテ」（真実のみが勝利する）が刻印されています。メダルの縁、外縁、両面の浮き彫り部分は純金製で、「パドマ・ブーシャン」の文字部分には金めっきが施されています。メダルを吊るす綬は幅約32mmで、ピンク色の地に中央に幅広の白い一本線が入ったデザインです。パドマ・ブーシャン勲章は、インドの栄典及び記章の中で、佩用優先順位の5番目に位置づけられており、コルカタにあるアリポレ造幣局で製造されています。

このように、パドマ・ブーシャン勲章は、インド社会における様々な分野での傑出した貢献を称える、極めて重要な国家栄典の一つです。

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