パラコート

パラコートとは

パラコート（Paraquat）は、ビピリジニウム系の非選択的除草剤の一種で、イギリスのインペリアル・ケミカル・インダストリーズ (ICI) によって開発されました。元々はメチルビオローゲンという酸化還元指示薬の商標名でしたが、現在では一般名として広く用いられています。

歴史

1882年に、オーストリアの化学者フーゴ・ヴァイデルとその教え子によって、パラコートジヨージドとして初めて合成されました。その後、1955年にICIが除草剤としての特性を発見し、1962年に「グラモキソン」という商品名で製造・販売を開始しました。

特徴

パラコートは、接触した葉や茎のみを枯らし、根までは枯らさないため、水田の畦畔や斜面の法面保持に利用されてきました。即効性が高い一方で持続性はなく、散布後は速やかに土壌に吸着され不活性化します。そのため、散布後にすぐに作物を植えることが可能です。安価で経済的な点も広く利用されてきた理由の一つです。しかし、パラコートに耐性を持つ植物の出現や、その耐性が遺伝することが報告されています。

活性[[酸素]]を発生させる力が強く、活性[[酸素]]の研究にも利用されます。

日本におけるパラコート

日本では、パラコート原体を輸入して製剤化していましたが、1999年までは国内でも製造されていました。しかし、毒性が強く、自殺や他殺事件に利用されることが多かったため、社会問題となりました。農薬登録を受けずに販売された製剤も存在し、農林水産省が登録を指導する事態も発生しました。

パラコートという名前は、4級窒素のパラ位に由来します。

構造と類似化合物

パラコートは、ピリジン構造を2つ結合させたビ[[ピリジン]]誘導体です。4,4'-ビ[[ピリジン]]の窒素原子をメチル化したピリジニウム塩であり、正電荷を持つビ[[ピリジン]]部位が土壌に強く結合し、毒性を失います。

類似の化合物として、ジクワットやシペルクワットなどがあります。また、一部の毒キノコに含まれるオレラニンも類似の構造を有します。

日本では、パラコートの二塩化物とメチル硫酸塩が除草剤として製剤化されました。

製剤

以前は高濃度の液剤として販売されていましたが、中毒事故が多発したため、1986年からはパラコートとジクワットの混合剤である「プリグロックスL」のみが販売されています。パラコート製剤は誤飲防止のために青い色素で着色されており、過去には着色されていない製剤による中毒事故も発生しています。

日本では、パラコート製剤は「医薬用外毒物」として厳格に管理され、購入時には印鑑が必要で、18歳未満の購入は禁止されています。アメリカ合衆国などでは、ドクロマークのピクトグラムで注意を促しています。

作用機序

パラコートは、細胞内で電子を奪ってラジカルとなり、酸化される際に活性[[酸素]]を発生させます。この活性[[酸素]]が細胞内のタンパク質やDNAを破壊し、植物を枯死させます。動物体内でも同様の反応が起こり、特に肺に蓄積しやすいため、大量摂取すると間質性肺炎や肺線維症を引き起こします。

毒性

パラコート及びその塩類を含む製剤は、毒物及び劇物取締法における毒物です。ヒトに対する致死性が高く、解毒剤がないため、中毒死者が多く発生しました。神経系統は正常に保たれるため、中毒者は意識がはっきりしたまま苦しみ抜いて死亡することが特徴です。

治療法としては、活性炭投与や胃洗浄などによる体内吸収の減少化が試みられますが、有効な治療法は確立されていません。予後は血中濃度と相関し、Hartノモグラムが知られています。酸素投与は肺障害を悪化させるため、禁忌とされています。

反対運動と規制

高い死亡率と悲惨な中毒経過から、医師や薬剤師の間で販売規制を求める声が高まりました。1978年には日本救急医学会が販売禁止を求める声明を出し、1985年には日本農村医学会が「特定毒物」指定を求める決議を採択しました。

メーカー側は、高濃度製剤の生産を中止し、低濃度の混合剤に切り替えることで対処しました。また、販売時の記名や身分証明書の提示が義務付けられました。

規制が強化された結果、パラコートの市場占有率は低下し、1999年には国内生産が中止されました。しかし、2000年代になっても農薬中毒による死亡事故の約40%を占めるなど、問題は依然として残っています。

マレーシアやEUなど、多くの国や地域でパラコートの使用が禁止されています。

その他

インターネットオークションでの出品事例があり、問題視されています。一部の医師は、パラコートに対するSOD活性を調べることで、癌罹患リスクを評価する研究を行っています。

パラコートは、その有用性の一方で、高い毒性による深刻な問題を引き起こしてきた農薬です。その歴史と特性を理解することは、農薬の安全な使用を考える上で重要です。

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