ジクワット

ジクワット（Diquat）

ジクワットは、ビピリジニウム系に分類される非選択性の除草剤です。イギリスの企業、プラント・プロテクションによって開発され、商品名「レグロックス」として広く知られています。除草剤としての利用のほか、ジャガイモの収穫前の蔓枯らしにも使われることがあります。製剤はイギリスから輸入され、日本国内で小分け製造されています。「ダイコート」と発音されることもあります。臭素塩であるため、ジクワットジブロミドとも呼ばれます。

土壌に付着すると速やかに活性を失い、木や根を枯らすことがないため、薬剤散布後すぐに種をまいたり、作物を植えることが可能です。パラコートと同じく、アルキルビピリジニウム塩に分類され、化合物としての名称は1,1'-エチレン-2,2'-ビピリジニウムジブロミドです。

構造

ジクワットは、ベンゼン環の炭素原子の一つを窒素原子に置き換えたピリジン構造を有しています。ピリジンが2個結合した化合物はビピリジンと呼ばれ、6種類の異性体が存在しますが、ジクワットは2,2'-ビピリジンの窒素原子間にエチレン鎖を導入したピリジニウム塩（アンモニウム塩）です。ジクワットの窒素原子は正電荷を持つため、土壌成分と結合して長期間残留しますが、結合すると同時に毒性を失う特性があります。ジクワット単体と臭素塩が合成されていますが、除草剤として利用されるのは臭素塩です。

1,1-エチレン-2,2'-ビピリジニウム=ジブロミド（ジクワットジブロミド：CAS登録番号:85-00-7 ）
1,1-エチレン-2,2'-ビピリジニウム=ジブロミド水和物（ジクワットジブロミド水和物：CAS登録番号:6385-62-2 ）
1,1-エチレン-2,2'-ビピリジニウム（ジクワット単体：CAS登録番号:2764-72-9 ）

合成方法

ピリジンを加熱されたラネーニッケル触媒上でカップリングし、2,2'-ビピリジンを得ます。次に、2,2'-ビピリジンの窒素原子間に1,2-ジブロモエタンでエチレン鎖を導入し、ジクワットの臭素塩を得ます。

作用機序

ジクワットは植物体内に入ると、NADPHという酵素との反応によりジクワットラジカルになります。このジクワットラジカルが酸素と反応して元のジクワットイオンに戻る際に活性酸素が生じ、細胞の遺伝子であるDNAや蛋白質を破壊し、植物を枯死させます。この酵素は動物にも存在するため、同様の反応が起こります。ジクワットはこの反応を触媒的に何度も繰り返します。パラコートとは異なり、肺への能動的な蓄積は認められていません。

毒性

ジクワットは劇物に指定されており、毒性の強い薬剤です。サルモネラ菌などで変異原性が認められています。人体中毒症状はパラコートに類似しており、肝腎機能障害、肺水腫へと進行しますが、ジクワットでは肺線維症の報告はありません。一般的に致死が早く、パラコートに比べて急性腎不全が起こりやすいとされています。また、痙攣、意識障害、白内障、脳出血などの臓器出血、麻痺性イレウスを起こしやすいことも報告されています。

毒性はパラコートの約半分とも言われていますが、界面活性剤と共に服用し、血液透析を行ったにもかかわらず、急激な肺水腫・血圧低下を起こし死亡した例もあるため、楽観視はできません。パラコートと同様に、解毒剤は存在しないため、対症療法による治療のみとなります。

パラコートと同様に、手袋形・靴下形感覚等の多発性神経症状を起こすほか、MPP+（シペルクワット）との化学構造の類似性から、パーキンソン病との関係も疑われています。

目立った反対運動が起こらなかった背景には、[パラコート]]ほどの市場占有率を持っていなかったことが関係していると考えられます。[[欧州連合]では、2018年10月12日以降、いかなる使用も承認されなくなりました。

ジャガイモの収穫前使用

北海道では、ジャガイモを収穫する際に機械で掘り起こしますが、効率を良くするため、ジクワットを散布して蔓を枯らしてから収穫を行います。しかし、使用時期が早すぎると、ジャガイモ内に輪状斑を生じることがあります。また、トラクターで薬剤を散布するため、広範囲に霧状に薬剤が飛散する可能性があり、周囲の人や家畜にかからないよう細心の注意が必要です。労働安全のため、日本の農薬企業が代替品の普通物（毒物・劇物の指定を受けていない）製剤を開発し、販売しています。

製剤

濃度31.8%の液剤、またはパラコートとの混合剤として販売されています。農薬登録は1963年6月22日です。

ジクワット31.8%
レグロックス（農水省登録番号22143）
パラコートとの混合剤
ウィドール（パラコート 3%、ジクワット 4%。生産中止）
プリグロックス（パラコート 10%、ジクワット 14%。1986/7からプリグロックスLに置き換わり、生産終了）
プリグロックスL（パラコート 5%、ジクワット 7%。販売中。農水省登録番号16397）
マイゼット（プリグロックスLと内容は同じ。2003年にプリグロックスLに名称を統合し、販売終了したが、農薬登録は継続中。農水省登録番号16400）
グリホサートとの混合剤
オルゼット（非農耕地用除草剤として、農薬登録のない製剤。生産中止）

関連項目

パラコート
除草剤の一覧

外部リンク

レグロックス（その他の除草剤）の農薬情報 - シンジェンタ
農薬評価書 ジクワット - 内閣府食品安全委員会
* 化学物質：GHSモデル SDS情報 職場のあんぜんサイト 厚生労働省 1,1'‐エチレン-2,2'-ビピリジニウム＝ジブロミド

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