パレオパラドキシア

パレオパラドキシア（学名: Paleoparadoxia）は、およそ1300万年前に絶滅した束柱目に属する哺乳類です。その学名は「古代の不思議なもの」を意味し、その特異な形態と生態を示唆しています。彼らは、西日本から北米、そしてメキシコにかけての太平洋沿岸地域に生息していました。

形態と生態

パレオパラドキシアは、体長が1.5〜2.0メートルほどで、現代のカバやセイウチに似た体格をしていたと考えられています。彼らは海辺でカバのように水辺を歩き回ったり、水中に潜ったりする生活を送っていたと推測されています。食性は基本的に草食で、束柱目の特徴である、円柱を束ねたような形の臼歯を持っていました。しかし、同じ束柱目のデスモスチルスと比較すると、エナメル質が薄く、臼歯の配置も異なっています。また、牙のように突出した切歯も円筒状になっているのが特徴です。彼らは、水中に深く潜ることは得意ではなかったと考えられています。

日本における発見

日本国内では、各地でパレオパラドキシアの化石が発見されています。特に有名なのは、1984年に福島県伊達市梁川町の広瀬川河床で発見された「梁川標本」です。この標本は、ほぼ完全な形で見つかった世界で4例目の貴重なもので、頭骨が正常な形で発掘されたものとしては、アメリカ合衆国北カリフォルニアのSLAC（スタンフォード大学の物理学研究施設）にある標本以外には、この梁川標本しかありません。

梁川で化石が発見された1984年は、福島県が旱魃に見舞われ、広瀬川の水量が著しく減少した年でした。そのため、普段は水面下にある河床が露出し、化石が発見されるに至ったのです。当時の横浜国立大学の長谷川善和教授（古生物学、現在は群馬県立自然史博物館名誉館長）や、福島大学の鈴木敬治教授（地質学）らが中心となって研究が進められました。現在、梁川標本は福島県立博物館に収蔵されています。

梁川以外にも、岐阜県土岐市（幼獣の全身骨格、1950年）、埼玉県秩父市、埼玉県小鹿野町、群馬県安中市、岡山県津山市（1982年）などで化石が発掘されています。2016年3月には、秩父地方で発見された化石が「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群」として国の天然記念物に指定され、小鹿野化石館などで展示されています。

2022年には、岐阜県瑞浪市釜戸町で非常に保存状態の良い化石が発見され、当初はパレオパラドキシアのものとして報道されましたが、2024年現在では、パレオパラドキシア科の属種未定種とされています。正式な属種の記載は、化石の剖出が完了した後に行われる予定です。

参考文献

沼野忠之　「津山地方に珍獣パレオパラドキシアがいたころ」『自然への想い 岡山 - 昔を探り、今を見つめて』　倉敷の自然をまもる会編、山陽新聞社、1993年、40-45頁、ISBN 4-88197-458-0。
富田幸光 文、伊藤丙雄、岡本泰子イラスト 『絶滅哺乳類図鑑』 丸善、2002年、ISBN 4-621-04943-7。

関連項目

デスモスチルス：同じ束柱目に属する哺乳類で、パレオパラドキシアよりも後の時代に生息し、生息域もほぼ重なっていました。
SLパレオエクスプレス：秩父鉄道で運行されているSL列車の愛称で、沿線地域でパレオパラドキシアの化石が発見されたことにちなんで名付けられました。
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群

外部リンク

パレオパラドキシア（島根大学 汽水域研究センター）
* パレオパラドキシア発見地（参考）

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