パレスチナのクリスマス

パレスチナのクリスマス：信仰と伝統、そして平和への願い

パレスチナでは、人口の大部分をイスラム教徒が占めるため、ヨーロッパ諸国のような華やかなクリスマスの光景はあまり見られません。しかし、5万人以上と言われるキリスト教徒たちは、独自の伝統と信仰に基づいたクリスマスの祝祭を大切に受け継いでいます。12月24日から25日にかけて行われる祝祭は、宗派によっては1月まで続くこともあります。

聖地で彩られるクリスマス

歴史的にキリスト教と深い関わりを持つパレスチナ各地では、クリスマスの祝祭が盛大に行われます。エルサレム、ベツレヘム、ナザレといった聖地では、クリスマスマーケットが開かれ、多くの人々が訪れます。街中はクリスマスツリーや馬小屋飾り、様々なデコレーションで華やかに彩られ、聖なる夜への期待感に満ち溢れます。

特にベツレヘムでは、クリスマスの9日前から歌と祈りが捧げられ、祝祭ムードが高まります。クリスマスイブには、エルサレム総主教らによる行進が行われ、真夜中には多くの信徒たちが降誕教会やマンガー（飼い葉桶）広場に集まり、イエス・キリストの誕生を祝います。祈りの後、家族と共に特別な食事を囲み、贈り物を交換してクリスマスの喜びを分かち合います。

マンガー広場では、クリスマスツリーとイルミネーションが輝き、訪れた人々は花火大会やパレスチナの伝統的な踊り、キリスト降誕劇などを楽しみます。世界遺産にも登録されている降誕教会は、ローマ・カトリック、東方正教会、アルメニア使徒教会が共同で管理しており、毎年行われる祝祭の様子は世界中に発信されます。この教会には、巡礼者を含め数万人の人々が訪れ、キリストの降誕を祝います。

2023年：戦争がもたらした静かなクリスマス

2023年は、ハマース・イスラエル戦争による混乱のため、パレスチナのクリスマスは大きな影を落とされました。パレスチナのキリスト教指導者たちは、宗派を超えて全ての祝祭の中止を決定しました。マンガー広場では、例年見られた祝賀会やクリスマスツリー、イルミネーションなどは行われず、静かなクリスマスとなりました。これは、現代におけるクリスマスの祝祭が始まって以来、初めての出来事でした。

ディアスポラのパレスチナ人たちもまた、多くの犠牲者が出たことを受け、盛大なクリスマス祝祭を自粛する動きが見られました。国内のキリスト教徒の家庭でも、悲しみに暮れる人々が多く、庭にクリスマスツリーを飾ったり、飾り付けをする家庭は少なかったと言われています。

パレスチナのクリスマス料理

パレスチナのクリスマス料理は、ヨーロッパのそれとは異なり、独自の文化と伝統を反映した独特のものです。キドレ（ヘブロン伝統のひよこ豆と肉のスープ）やサンブーセク、スフィーハなどのペストリー、ラム・ネックの詰め物、コウサ・マフシとワラク・イナブ（ブドウ葉とズッキーニの詰め物）、タージ・アル・マレック（米とひき肉を詰めた子羊のリブ）といった、様々な詰め物料理が食卓を彩ります。クリスマスケーキには、地域の果物を使ったフルーツケーキが用いられることが多いです。

デザートには、グレイベと呼ばれるビスケットやスパイスの効いたクッキー、アーモンド入りのデーツやイチジクなどのドライフルーツなどが提供されます。カアックやマアムールなどの伝統菓子は、クリスマスだけでなく、イースターやイスラム教のラマダーン明けなどにも食される、パレスチナの人々にとって大切なものです。

パレスチナのクリスマスは、宗教的な祝祭であると同時に、人々の信仰、文化、伝統が織りなす、かけがえのない時間です。戦争による影が濃く覆った2023年を経ても、パレスチナの人々は、平和への願いを胸に、それぞれの形でクリスマスを迎えました。そして、その祈りと希望は、未来へと受け継がれていくことでしょう。

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