パロマ湯沸器死亡事故

パロマ湯沸器死亡事故は、株式会社パロマ（旧パロマ工業）が1980年から1989年に製造した屋内設置型の強制排気式（FE式）ガス瞬間湯沸器の不具合により、一酸化炭素中毒が発生し、多数の死傷者が出た事件です。

概要

この事故は、パロマが製造したFE式ガス瞬間湯沸器の排気ファン動作不良が原因で、1985年から2005年までの約20年間にわたり、日本国内で28件発生しました。その結果、21人もの命が失われ、19人が重軽傷を負いました。事故の直接的な原因は、修理業者が行った不正改造によるものでしたが、パロマは長年事故の存在を把握していながら、消費者への周知を怠り、事故撲滅のための対策を講じなかったことが厳しく批判されました。

この事故を契機に、消費生活用製品安全法が改正され、製造事業者には重大な製品事故の報告義務が課せられることとなりました。

会社の対応

パロマは当初、事故の一部分しか把握していないと主張していましたが、実際には事故発生直後から本社担当部門が全ての事故を把握していました。遅くとも1992年には、当時の社長であり後に会長となった小林敏宏氏も報告を受けていました。その後、社内やサービス業者向けに注意喚起を行ったものの、消費者への告知は一切行われませんでした。

また、パロマは事故発生の度に、当時の通商産業省へ口頭で事故情報を報告していましたが、同省も必要な行政処置や消費者への告知を行いませんでした。パロマは当初、自社および製品に責任はないと主張していましたが、後に系列サービス業者による不正改造や製品の安全装置の劣化を原因とする事故が多数あったことが判明したため、謝罪に追い込まれました。

この事故の影響で、パロマは国内生産を大幅に減産し、従業員の人員削減も行いました。

他社との比較

パロマは、この事故により、日本でトップシェアを誇っていた給湯器部門の地位を、同じ名古屋市に本社を置くリンナイに明け渡すことになりました。リンナイ製品でもFE式屋内型湯沸器は製造されていましたが、同時期のリンナイ製品は、排気ファンが本体内蔵ではなく、上部にシルクハット型の別ユニットとして装備されていました。この構造が、パロマ製品の構造的な問題による事故との比較で、安全性が高いと評価されました。

パロマは、業務用の供給が多かったことから、イニシャルコストを重視してモデルチェンジのサイクルが非常に長い商品が多く、特に湯沸器・給湯器において、それが事態を拡大させた一因となりました。パロマが該当製品の生産を終了した1989年には、リンナイは既に古典的な圧電点火式の湯沸器の製造を打ち切り、電子制御式の「ユッコ」シリーズにほぼ統一していました。

パロマは、リコール対象の商品の交換用機材として、自社製の「WALLMAN『静』」シリーズを準備しましたが、実際には信用失墜により、他社製品、特にリンナイ製品への交換が希望されました。また、2007年にはリンナイ製品による一酸化炭素中毒死亡事故も発生しましたが、リンナイの迅速な対応により、消費者の信頼を失うことなく、逆にパロマのシェアを奪う結果となりました。

経済産業省の対応

経済産業省は、2006年 8月28日付で回収命令（消費生活用製品安全法に基づく緊急命令）を発出しました。パロマは、これを受けて、お詫びCMを放送しましたが、同時期に自社製品で死亡事故を起こした他の企業と比較すると、その対応の細やかさや安全意識に大きな差が見られました。

事故原因と隠蔽体質

事故調査の結果、パロマの製品には構造的な問題があり、それが事故の大きな原因であることが判明しました。また、パロマの対応の遅れや隠蔽体質は、同族経営企業であることも一因であると、第三者委員会から指摘されています。

主な事故

1985年から2005年にかけて、パロマ製瞬間湯沸器を原因とする一酸化炭素中毒事故が相次いで発生しました。以下は主な死亡事故です。

1985年1月 - 北海道札幌市内で2人死亡
1987年1月 - 北海道苫小牧市内で2人死亡
1989年4月 - 北海道北見市内で1人死亡
1990年12月 - 北海道帯広市内で2人死亡
1991年9月 - 長野県軽井沢町内で1人死亡
1992年1月 - 奈良県王寺町内で2人死亡
1992年4月 - 北海道札幌市内で2人死亡
1992年12月 - 福岡県福岡市内で1人死亡
1994年2月 - 秋田県秋田市内で2人死亡
1996年3月 - 東京都港区内で1人死亡
1997年8月 - 大阪府大阪市内で1人死亡
2001年1月 - 東京都新宿区内で2人死亡
2005年11月 - 東京都港区内で1人死亡

刑事・民事訴訟

警視庁による再捜査

2006年、1996年に発生した死亡事故について、遺族が警視庁に再捜査を要望。その結果、死因がパロマ製湯沸器の不具合による一酸化炭素中毒であることが判明しました。

パロマの責任

パロマは、当初、事故原因は製品ではなく、サービス業者による不正改造が原因であると主張していました。しかし、その後の調査で、製品の安全装置の劣化や、パロマが事故を長年把握していながら、対策を怠っていたことが明らかになり、謝罪に追い込まれました。

刑事訴訟

2007年、パロマの当時の社長や幹部が業務上過失致死傷罪で在宅起訴され、2010年に有罪判決が言い渡されました。

民事訴訟

遺族による損害賠償請求訴訟も相次ぎ、パロマは複数の訴訟で賠償責任を認められ、和解や賠償金の支払いを余儀なくされました。

該当製品

PH-81F
PH-82F
PH-101F
PH-102F
PH-131F
PH-132F
PH-161F
PICM-250（東邦ガスブランド）
PA-108FE（東京ガスブランド）
PA-113FE（東京ガスブランド）
KPA-608F（北海道ガスブランド）
KPA-610F（北海道ガスブランド）
KPA-613F（北海道ガスブランド）

参考文献

江花優子『君は誰に殺されたのですか―パロマ湯沸器事件の真実』新潮社、2008年

関連項目

パロマ (企業)
リンナイ湯沸器死亡事故
ナショナルFF式石油暖房機事故
三菱リコール隠し
消費生活用製品安全法
* 消費者庁

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