パワーコード

パワーコードとは

パワーコードは、主にエレキギターで使用される和音の一種で、特にディストーションなどのエフェクトをかけた状態で、5度離れた2つの音を同時に鳴らす奏法です。コードにおけるボイシングの一種と捉えられることもあります。

概要

パワーコードは、通常のメジャーコードやマイナーコードから第3音を省略した形をとります。これにより、音が濁るのを防ぎつつ、力強い印象のサウンドを得ることができます。オクターブ上の音を加えることもあります。通常はボイシングの一種として扱われるため、楽譜に特別な表記がされることは少ないですが、ルート音（例えばC）を基準にC5と表記されることもあります。

ロックギタリストが、「トライアドコードでは音が柔らかすぎるが、7thコードでは響きが強すぎる。単音では物足りない」という状況を解決するために使い始めたと言われています。また、アンプで激しく歪ませたエレキギターで通常の和音を演奏すると、歪みが強すぎて聴き苦しくなるため、音を省略する理由にもなりました。

歪ませたエレキギターにおける標準的なボイシングとして広く受け入れられており、考案者はリンク・レイという説があります。

原理

パワーコードの原理は、複合音の発生原理に基づいています。オーバードライブやディストーションを施して音声信号を歪ませると、倍音や非線形性によって複合音が強調され、単音でも複数の音を重ねたような効果が得られます。

歪ませたエレキギターで3度音程の2音を鳴らすと、平均律における3度音程と倍音列とのずれが大きいため、多くの複合音が発生し、不明瞭な音になります。そのため、3度音程を鳴らすことは避けられます。

一方、5度音程の2音は、平均律でも2:3の比率に近く、倍音列とのずれによる複合音は目立ちません。さらに、5度と8度（ルート音の2倍音）の差音によって、倍音列に含まれる3度音程が発生し、さらにルート音の1オクターブ下に差音が発生し、結果としてルート音を1オクターブ下に追加したような効果が得られます。

このように、歪みが顕著な状況では5度音程で2音鳴らすことが特に優位になります。ここにさらに8度音程を加えることもあります。

特徴と利用

パワーコードは、構成音としては空虚五度と同じですが、その用法や意味合いは異なります。パワーコードは主にロックとその周辺ジャンルで使用される用語であり、アコースティックギターでは音が弱いため、あまりパワーコードとは呼ばれません。

通常、第3音はコードがメジャーかマイナーかを識別する重要な役割を持ちますが、ロックではダイアトニックコード（その調に含まれる音のみで構成されたコード）が主体となることが多く、前後の流れやベースライン、メロディからコードが類推できるため、第3音を省略しても大きな問題はありません。

ジャズではノンダイアトニックコード（その調にない音を含むコード）が多く使われるため、パワーコードで伴奏するとコード進行の特徴が出にくく、あまり使用されません。ノンダイアトニックなコード進行やsus4コードを取り入れた曲でパワーコードを使用する場合は、ピアノやオルガン、アコースティックギターなどの他の楽器で音を補う必要があります。

ハードロックやヘヴィメタルでは、マイナーコードのメロディに歪ませたパワーコードで速いテンポでバッキングをすることが多くあります。この場合、短三和音が含まれないため、リズムや音質と合わさり、マイナー調特有の悲しい雰囲気が薄れます。しかし、メロディがマイナーであるため、若干の悲哀が残り、これが同ジャンルの「激しくて哀愁を含んだメロディー」と表現される音楽性の一因となっています。

まとめ

パワーコードは、エレキギターの歪みサウンドに特化した、シンプルながら力強い響きを持つ和音です。ロックやメタルなど、幅広いジャンルでその特徴を活かした演奏がされています。

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