パン (衛星)

土星の衛星パン：環を形作る小さな羊飼い

土星の第18衛星であるパンは、土星の環の中でも特にA環に存在するエンケの間隙の中を公転する、特徴的な衛星です。羊飼い衛星として、周囲の環の粒子に影響を与え、エンケの間隙を形作る重要な役割を担っています。

存在の予測と発見

エンケの間隙に衛星が存在するという予測は、1985年にジェフリー・N・クッツィとジェフリー・D・スカーグルによって発表されました。彼らは、間隙の縁に見られる波模様が、重力的な擾乱の存在を示唆していると考えたのです。1986年には、マーク・R・ショーアルターが重力的な影響をモデル化し、間隙内に存在するであろう衛星の軌道と質量を推定しました。その結果、衛星の軌道長半径は133,603 ± 10 km、質量は土星の(5-10) × 10⁻¹²倍と推定され、間隙内には1つの衛星しか存在しないことが示唆されました。驚くべきことに、実際のパンの軌道長半径との差はわずか19 km、質量は土星の8.6 × 10⁻¹²倍であり、この推定は非常に正確であったことがわかります。

その後、1990年にショーアルターは、予測された位置の1°以内に衛星を発見しました。彼は、1981年にボイジャー2号が撮影した土星の写真を分析し、衛星が写っている可能性のある画像を探し出しました。その結果、11枚の写真に衛星が写っていることが確認されました。

名称

衛星の発見は1990年7月16日に国際天文学連合の回報で発表され、仮符号S/1981 S 13が与えられました。この仮符号の数値が1981であるのは、発見に用いられた写真が撮影された年を示しています。

1991年9月16日、衛星は正式にパンと命名されました。この名前は、ギリシャ神話に登場する牧神パーンに由来しています。パーンは羊飼いと羊の群れを見守る神であり、この衛星が羊飼い衛星としての役割を担っていることにちなんで名付けられました。また、この命名と同時に、Saturn XVIIIという確定番号も与えられました。

軌道

パンは土星から平均133,584 kmの距離を公転しており、かつては土星の衛星の中で最も内側を公転していました。しかし、現在ではS/2009 S 1|S_2009 S 1にその座を譲っています。パンはA環にエンケの間隙を形成しており、その幅は約325 kmに及びます。

特徴

パンの平均半径は14.1 kmですが、実際には平べったい形状をしています。そのため、三軸径はそれぞれ異なっています。

カッシーニ探査機の観測により、パンは赤道付近が薄く広がった鍔のような形状を持つ、空飛ぶ円盤のような形をしていることが明らかになりました。カッシーニのミッション終盤には、土星の環やその中の衛星を近距離から観測する機会が増え、パンの詳しい形状が観測されました。研究者たちは、パンの形状を「クルミ型」と表現しています。この特徴的な形状は、パンと土星の環の物質との相互作用によって形成されたと考えられており、周囲の微粒子が赤道面上に降り積もることで、このような形状になったと推測されています。また、メディアによってはエンパナーダやラビオリといった食べ物に例えられることもあります。

環との関係

羊飼い衛星であるパンは、A環の中に存在し、エンケの間隙を形成する上で重要な役割を果たしています。間隙は完全に空っぽではなく、リングレットと呼ばれる細い環状構造が、パンの軌道と同じ位置に存在しています。このリングレットは、馬蹄形軌道にある粒子の集まりで構成されており、パンの重力的な影響によって形成・維持されています。また、パンは2番目のリングレットを周期的に破壊しており、これはF環がプロメテウスによって攪乱されるメカニズムと似ています。

パンは、その特異な形状と環との相互作用を通じて、土星の環システムのダイナミクスを理解する上で重要な役割を果たしています。

出典

* ザ・ナインプラネッツ 日本語版（土星の小さな月たち）

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