パンキーのジレンマ

「パンキーのジレンマ」（Punky's Dilemma）は、1968年にアメリカのフォークロックデュオ、サイモン＆ガーファンクルが発表した楽曲です。彼らの革新的なアルバムとして名高い『ブックエンド』に収録されており、その独特な背景と制作過程は、楽曲が持つ個性的な魅力を一層際立たせています。

この楽曲の起源は、1967年12月21日に全米公開されたマイク・ニコルズ監督の映画『卒業』のために遡ります。サイモン＆ガーファンクルのメンバーであるポール・サイモンは、映画音楽の依頼を受け、「パンキーのジレンマ」と「Overs」という二つの楽曲を書き下ろしました。しかし、ニコルズ監督は、これらの楽曲が映画全体の雰囲気やテーマに必ずしも合致しないと判断し、本編での採用を見送るという決断を下しました。この採用見送りという出来事が、後に彼らのキャリアを代表するのみならず、音楽史上に残る不朽の名曲となる「ミセス・ロビンソン」が誕生するきっかけとなったという、極めて重要な伏線として機能しました。

アルバム『ブックエンド』に収められる数ヶ月前、この「パンキーのジレンマ」は、1967年6月16日にカリフォルニア州モントレーで開催された歴史的な音楽祭、モントレー・ポップ・フェスティバルで、いち早く一般の観衆の前で披露されました。サイモン＆ガーファンクルのパフォーマンスの終盤、彼らは観客に対し「あと2分だけ時間をください」と語りかけ、この楽曲の演奏を開始しました。その歌詞は、当時としても型破りであり、ある種の不条理さや「奇妙さ」を帯びていたと評されています。実際にその場に居合わせた観衆は、楽曲が進むにつれて独特な歌詞の一節一節に反応し、会場のあちこちから笑い声が上がったと伝えられています。このフェスティバルを記録した当時のブートレッグ音源などを聴くと、その観客の率直でユニークな反応を確認することができます。

「パンキーのジレンマ」のレコーディングが行われた1967年中頃は、ソングライターとしてのポール・サイモンが、創作活動において一時的な行き詰まりを感じていた、いわゆるスランプの時期だったとされています。このような状況下、レコーディング作業のプロデュースを担う人物として、ジョン・サイモンが新たにチームに加わりました。ジョン・サイモンの指揮のもと、サイモン＆ガーファンクルは同年6月にはシングルとして発表される「フェイキン・イット」の制作を成功させ、続く10月にはアルバム『ブックエンド』の重要な一曲となる「パンキーのジレンマ」の本格的なレコーディング作業を開始しました。この楽曲の完成には、尋常ではないほどの時間が費やされたことが知られています。当時のレコーディング現場に立ち会うことが特別に許された数少ないジャーナリストの一人、雑誌『High Fidelity』のライター、モーガン・エイムズは、その模様を詳細に記録しています。彼の証言によれば、ポール・サイモン、アート・ガーファンクル、そしてプロデューサーのジョン・サイモンが、楽曲を完成させるために50時間以上もの間、スタジオに籠り、細部にわたるまで徹底的な作業を行ったといいます。この長時間にわたる集中的なセッションが、「パンキーのジレンマ」が持つ独特で複雑なサウンドスケープを生み出す上で、決定的な役割を果たしたのかもしれません。この楽曲は、単なるアルバムの一曲としてだけでなく、サイモン＆ガーファンクルというデュオが、創造的な葛藤や新たなサウンドへの挑戦を経て、どのようにして独自の音楽世界を築き上げていったかを示す、貴重な証の一つと言えるでしょう。

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