パーフォリン

パーフォリンとは

パーフォリン（perforin） は、ヒトではPRF1遺伝子、マウスではPrf1遺伝子の指令に基づいて作られるタンパク質です。私たちの体を守る免疫システムの重要な担い手である細胞傷害性T細胞やナチュラルキラー（NK）細胞の内部にある顆粒の中に蓄えられています。

細胞溶解のメカニズム

パーフォリンの主な役割は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞といった標的細胞を認識し、これを破壊することです。この細胞破壊は、パーフォリンが標的細胞の細胞膜に孔（あな）を開けることで実現されます。以下にその詳細なプロセスを説明します。

1. 顆粒からの放出と保護: 細胞傷害性T細胞やNK細胞が標的細胞を認識すると、細胞内の顆粒を標的細胞のそばで放出します（脱顆粒）。この放出される成分の一つがパーフォリンです。放出されたパーフォリンは、カルレティキュリンと呼ばれる別のタンパク質の助けを借りて標的細胞へと運ばれます。カルレティキュリンはシャペロンとして働き、パーフォリンが標的細胞に到達する前に分解されてしまうのを防ぐ役割を果たします。

2. 標的細胞膜への結合: 標的細胞に近づいたパーフォリンは、その細胞膜にあるリン脂質を介して結合します。特に、細胞膜の内側にあるホスファチジルセリンは、カルシウムイオンと結合することでパーフォリンの膜への親和性を高め、効率的な結合を促進します。

3. 孔（ポア）の形成: 細胞膜に結合したパーフォリン分子は、カルシウムイオンが存在すると多数集まって（オリゴマー化）、円筒状の構造を作り始めます。この構造は標的細胞膜を貫通し、膜に大きな孔を形成します。パーフォリンの細胞溶解能力を担う膜挿入領域はMACPFドメインと呼ばれており、これはグラム陽性菌が持つコレステロール依存性細胞溶解素と呼ばれるタンパク質と構造的な類似性が見られます。

4. グランザイムの導入: 膜に孔が開くと、細胞傷害性T細胞やNK細胞から放出された他のタンパク質、特にグランザイムと呼ばれるアポトーシス（プログラムされた細胞死）を促進するプロテアーゼファミリーが、この孔を通じて標的細胞の内部へ受動的に拡散して入り込みます。

5. 細胞死の誘導: 標的細胞内に侵入したグランザイムは、細胞内の様々なタンパク質を切断し、アポトーシス経路を活性化させることで、標的細胞を効率的に死滅させます。

パーフォリンは補体系のC9というタンパク質とも構造的・機能的に類似しており、C9と同様に膜を貫通する管状構造を形成し、様々な種類の標的細胞を区別なく破壊する能力を持ちます。パーフォリンは細胞傷害性顆粒に含まれる主要な細胞溶解因子であり、T細胞やNK細胞が細胞を破壊する過程で中心的な役割を果たすエフェクター分子として広く認識されています。細胞膜に孔が開くことでカルシウムイオンが標的細胞内へ流入しますが、細胞側にはこれを修復しようとする機構も働き始め、パーフォリンやグランザイムが初期エンドソームへと取り込まれることも知られています。

臨床的な重要性

パーフォリンの機能は、免疫応答において非常に重要です。PRF1遺伝子に生まれつき欠陥のあるアレルを両親から一つずつ受け継ぎ、ホモ接合型で遺伝した場合、家族性血球貪食症候群2型（FHL2）という重篤な疾患を発症します。この病気は非常に稀ですが、免疫システムの調節異常により、自己の血球や組織が攻撃される病態を引き起こし、特に乳幼児期に命に関わる深刻な状況となることが多い常染色体劣性の遺伝性疾患です。パーフォリンの機能不全は、免疫監視機構が適切に働かないことによる深刻な影響を示す典型例と言えます。

相互作用

パーフォリンは、上記で述べた細胞への輸送や保護に関わるカルレティキュリンというタンパク質と相互作用することが確認されています。

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