スカンダ

スカンダ（ムルガン）：ヒンドゥー教の軍神

スカンダ、あるいはムルガンとして知られる神は、ヒンドゥー教における重要な軍神です。父は破壊神シヴァ、母はシヴァの妃パールヴァティーとされていますが、いくつかの神話では、アグニとスヴァーハーを代理父母とする記述も見られます。神々の軍隊を率いるインドラに代わり、新たな神軍の最高指揮官として君臨しました。その影響はヒンドゥー教のみに留まらず、仏教にも伝わり、韋駄天として信仰されています。

多彩な名と外見

スカンダは、単一の名前ではなく、実に64もの異名を持ちます。代表的なものとしては、カールティケーヤ（すばる星団を象徴）、クマーラ（少年）、マハーセーナ（偉大な戦士）、セーナーパティ（戦士の王）などがあり、それぞれ異なる側面を表しています。

その外見は、6つの顔と12本の腕を持つ、孔雀に乗って槍を携えた若い男性の姿で描かれることが多いです。この多様な顔と腕は、彼の多様な能力と役割を象徴していると考えられています。1937年、N. Gopala Pillaiは「スカンダ」の名がアレクサンドロス大王の異名イスカンダルに由来するという説を発表しましたが、スカンダの方が歴史的に古いことから、この説は現在では否定されています。

誕生神話：アグニとスヴァーハーの物語

『マハーバーラタ』などの叙事詩には、スカンダの誕生に関する興味深い物語が描かれています。アグニが7人の聖仙の妻たちを愛してしまったものの、不倫を自制したところ、スヴァーハーがアグニを誘惑。6人の聖仙の妻に化け、アグニと性交し、その精液をアシュベータ山の黄金の穴に落としました。こうして生まれたのがスカンダです。6つの顔と12本の腕は、この6回の性交を反映しているという説があります。後に、シヴァがアグニに乗り移り、パールヴァティーがスヴァーハーに乗り移っていたという解釈も加えられ、スカンダはシヴァとパールヴァティーの息子であるという解釈が定着しました。別の説では、スカンダは元々6人の兄弟でしたが、パールヴァティーに抱きしめられた際に一体化したという話も存在します。

インドラとの確執

スカンダは、神々の王インドラとも確執がありました。互いの力を競い合ううちに争いが勃発し、カイラス山を周回する競走で決着をつけることになります。しかし、勝負後も互いに譲らず、カイラス山に判定を求めた結果、インドラに有利な判定が下されました。激怒したスカンダは、槍でカイラス山を削り、それが現在のクラウンチャ峠になったと伝えられています。

信仰の広がり

スカンダ信仰は、インド南部、特にタミル系の人々の間で根強く信仰されており、タミル人の移民が多いスリランカ、シンガポール、マレーシアなどの東南アジア諸国にも広がっています。

配偶者

スカンダは、戦闘以外には関心が薄く、女性を近づけず、自身の神殿への女性の立ち入りさえも拒否するとされています。しかし、カウマーリーやデーヴァセーナーを妻やパートナーとする記述も見られます。

スカンダは、その多様な神話と信仰形態を通して、ヒンドゥー教の信仰における多様性と奥深さを象徴する神格と言えるでしょう。

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