パーンツィリ-S1

パーンツィリ-S1：ロシアの多用途近距離対空防御システム

パーンツィリ-S1（NATOコードネーム：SA-22 グレイハウンド）は、ロシア連邦が開発した近距離対空防御システムです。「パーンツィリ」はロシア語で「鎧」を意味し、その名の通り、高い防御力を誇るシステムとして知られています。

システム概要

パーンツィリ-S1は、30mm連装機関砲2基（合計4門）と、短距離対空ミサイルを組み合わせた兵装を搭載しています。これは、以前のツングースカシステムと同様のコンセプトですが、ミサイルは9M311から9M335(57E6)へと進化しています。機関砲は毎分5,000発の射撃速度を誇り、4kmの射程を持ちます。一方、57E6ミサイルは、レーダーや赤外線探知機からの情報を用いた指令誘導方式で、1～20kmの射程を有し、左右に各6発、計12発搭載されています。

このシステムは、航空機（固定翼機、ヘリコプター）だけでなく、精密誘導爆弾、巡航ミサイル、さらには弾道ミサイルへの迎撃能力も備えているとされています。さらに、レーダー探知が困難な小型ドローンに対しても有効性を示す実験結果も公表されています。近年、パーンツィリ-S2、パーンツィリSM、パーンツィリSAなど、さらなる改良型や派生型も開発されています。

また、航空目標だけでなく、軽装甲車両などの地上目標への攻撃能力も備えている点が特徴です。2K22ツングースカと異なり、重トラックの車台を採用することで、製造・運用コストの低減と高い機動性の確保を実現しています。

火器管制システム

パーンツィリ-S1は、目標の探知と追尾のために、2基のレーダーと赤外線探知機を使用しています。1基は広範囲の索敵を担当し、もう1基は目標の追尾に特化しています。それぞれのレーダーの探知範囲は30kmと24kmです。レーダー作動中でも赤外線探知機は同時に使用可能で、最大2つの目標に同時に対応できます。輸出用廉価版は、コスト削減のため赤外線探知機のみを搭載する仕様も存在します。

開発と製造

パーンツィリ-S1は、ロシアのトゥーラにある「制御システム開発設計局」で開発され、1994年に試作機が完成、1995年に初めて公開されました。ウリヤノフスク機械工場で製造されており、これまでに200両以上の生産実績があります。2000年にはアラブ首長国連邦から最初の受注を獲得し、2007年に納入を開始、輸出も盛んに行われています。アラブ首長国連邦向けには、MAN社のトラックシャーシが使用されています。

2005年に量産体制が確立され、ロシア軍では2K22ツングースカ-M1の後継として配備が進められています。ロシア海軍でも、パーンツィリ-Mとして採用されています。2019年には、シリアでの運用経験を踏まえた改良型であるパーンツィリ-SMとその輸出型であるパーンツィリ-S1Mが発表されました。これらの改良型は、レーダーとミサイルの性能向上により、交戦距離の拡大を実現しています。

運用状況と採用国

パーンツィリ-S1は、ロシア軍だけでなく、アルジェリア、イラク、ヨルダン、オマーンなど、複数の国で採用されています。シリア内戦では、政府軍支援のために配備され、イスラエル軍によるミサイル攻撃の迎撃にも使用されました。一方で、リビア内戦やウクライナ侵攻においても運用されており、その戦闘実績から、その性能や弱点に関する様々な情報が公開されています。これらの紛争における運用経験は、システムの改良に役立てられていると考えられます。

まとめ

パーンツィリ-S1は、高い費用対効果と多用途性を備えた近距離対空防御システムとして、世界中で注目を集めています。継続的な改良と実戦投入を通じて、その性能はさらに向上していくと考えられます。しかし、リビアやウクライナでの鹵獲事例からもわかるように、完璧なシステムではなく、運用環境や敵の戦術によっては脆弱性を露呈する可能性も秘めていると言えるでしょう。

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