ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ

ブライアン・イーノ『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ』解説

『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ』（Here Come the Warm Jets）は、ブライアン・イーノが1974年1月に発表した記念すべき初のソロ・スタジオ・アルバムです。ロキシー・ミュージックを1973年6月末に脱退したイーノが、満を持して自身の音楽性を追求した作品として、音楽史にその名を刻んでいます。

制作の背景と参加ミュージシャン

ロキシー・ミュージック脱退後、イーノはすぐにソロ活動を開始。1973年8月にはロバート・フリップ（キング・クリムゾン）との共作「スワスティカ・ガール」を録音し、その創造性を爆発させました。そして同年9月、ロンドンのマジェスティック・スタジオで本作のレコーディングに臨みます。

レコーディングには、フリップに加え、キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラ、アンディ・マッケイ、ポール・トンプソンら、錚々たるメンバーが参加。イーノの音楽的なヴィジョンに共鳴した彼らの才能が、アルバムに深みと彩りを与えています。ミキシングはAIRスタジオとオリンピック・スタジオで行われ、イーノ自身とクリス・トーマスが担当しました。

反響と評価

アルバムは、全英アルバムチャートで最高26位、アメリカではBillboard 200で最高151位を記録。しかし、本作以降、イーノはしばらく母国イギリスでの商業的成功に恵まれず、『ミュージック・フォー・フィルムズ』（1978年）が全英55位を記録するまで、チャートから遠ざかることとなります。

評価面では、賛否両論がありました。『ローリング・ストーン』誌のゴードン・フレッチャーは、1974年のレビューで「彼の曲の奇異さに関しては『不可解』より『馬鹿げている』と言った方がいい」と批判。しかし、オールミュージックのスティーヴ・ヒューイは満点の5点を付け、「アヴァンギャルドでありながら極めて親しみやすい」と絶賛しました。PopMattersのジョン・デヴィッドソンは、「素人の指揮者／作曲家が、実に多彩な雰囲気を持つキャッチーなポップ曲を多数作り上げてみせたこと」を奇跡と評しています。

アルバムは、『ローリング・ストーン』誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」において、2003年版で436位、2020年版改訂で308位にランクイン。ピッチフォーク・メディアの「1970年代のベスト・アルバム100」では24位、『NME』誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」では427位に選ばれています。

収録曲

1. ニードルズ・イン・ザ・キャメルズ・アイ - "Needles in the Camel's Eye" (Brian Eno, Phil Manzanera)
2. ザ・ポー・ポー・ニグロ・ブロウトーチ - "The Paw Paw Negro Blowtorch"
3. ベイビーズ・オン・ファイアー - "Baby's on Fire"
4. シンディ・テルズ・ミー - "Cindy Tells Me" (B. Eno, P. Manzanera)
5. ドライヴィング・ミー・バックワーズ - "Driving Me Backwards"
6. オン・サム・ファーラウェイ・ビーチ - "On Some Faraway Beach"
7. ブランク・フランク - "Blank Frank" (B. Eno, Robert Fripp)
8. デッド・フィンクス・ドント・トーク - "Dead Finks Don't Talk"
9. サム・オブ・ゼム・アー・オールド - "Some of Them Are Old"
10. ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ - "Here Come the Warm Jets"

参加ミュージシャン

ブライアン・イーノ - ボーカル、シンセサイザー、キーボード、ギター、他
フィル・マンザネラ - ギター
ロバート・フリップ - ギター
ジョン・ウェットン - ベース
アンディ・マッケイ - キーボード、サックス

その他、多数のミュージシャンが参加。

『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ』は、ブライアン・イーノの才能が炸裂した、唯一無二の作品です。アヴァンギャルドとポップの融合、実験的なサウンド、そして参加ミュージシャンの個性が光る本作は、時代を超えて聴き継がれるべき名盤と言えるでしょう。

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