ヒオリテス

ヒオリテス（学名：Hyolitha）は、約5億4100万年前から約2億5200万年前にかけての古生代に地球上に広く分布し、現在では化石としてのみ発見される絶滅動物群です。その独特な形態から、古生物学者の間で長らく分類上の位置づけが議論されてきました。一般的には、エラを持つ動物群である冠輪動物に含まれると考えられています。

形態

外骨格

体の大部分は、炭酸カルシウムでできた堅い円錐形の殻に覆われていました。この殻は通常、1センチメートルから4センチメートル程度の長さで、断面は楕円形または三角形をしていました。殻の広い開口部には、蝶番で連結された一枚の蓋（オペルクルム）が備わっており、これにより殻の内部を保護したり、開閉したりできたと考えられます。また、一部のヒオリテス類では、開口部の両側から「ヘレンズ」と呼ばれる棒状あるいはヒゲ状の付属体が伸びていたことが知られています。

軟体部と内部構造

化石として残る殻や蓋の内側には、多数の筋肉が付着していた痕跡が見られます。これらの筋肉によって、蓋の開閉や、体が殻の中でどのように動いていたかが推測されています。口は吻（ふん）の先端に位置しており、その左右には数本の触手を持つ一対の器官がありました。これは、餌を集めるための「触手冠」であったと考えられています。消化管は体の内部でU字型に湾曲しており、口と同様に、開口部に向かって伸びた終端に肛門がありました。このようなU字型の消化管は、限られた空間である殻の中で効率的に器官を配置するための適応だったのかもしれません。

分類と系統

ヒオリテスは絶滅しており、現存するどの動物門とも直接的な類似性が少ないため、その正確な系統位置は古生物学上の大きな謎の一つでした。冠輪動物であるという点については多くの研究者間で合意が得られていますが、それより詳細な位置づけについては複数の説が存在します。

かつて、軟体動物門の一つのグループ、あるいは他のどの動物門にも属さない独立した門として扱われたり、消化管が螺旋状であるという誤認から星口動物に近いと考えられたりした時期もありました。

しかし、2010年代後半に入り、軟組織の詳細な構造までが良好に保存された化石の解析が進んだことで、分類に関する新たな知見が得られました。特に、U字型の消化管や触手冠の存在が、腕足動物や苔虫などの「触手冠動物」の特徴と類似していることが指摘され、ヒオリテスが基盤的な触手冠動物、あるいは腕足動物の幹（ステム）グループに属するという説が有力視されるようになりました（Moysiuk et al., 2017; Sun et al., 2018など）。これらの研究では、腕足動物に見られるような「肉茎」の存在を示唆する化石記録も報告されました。

その一方で、これらの見解に対して異論も提出されています。例えば、軟組織の解釈が異なることや、他の特徴に基づき、ヒオリテスはより広範な「基盤的冠輪動物」として位置づけるべきだという見解（Liu et al., 2019）や、殻の微細構造からはやはり軟体動物との親和性が見られるとする研究（Li et al., 2020）も発表されており、現在も活発な議論が続けられています。

このように、ヒオリテスは過去の生物でありながら、そのユニークな形態と分類上の不確実性から、古生物学の研究対象として重要な位置を占めています。

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