ヒシカラスザメ

ヒシカラスザメ (Etmopterus virens)

ヒシカラスザメはカラスザメ科に属する小型の深海サメで、主に西部大西洋の上部大陸斜面に分布しています。この魚類の全長は最大で26cmに達し、細長い体と尾を持っています。また、体の表面には円錐形の皮歯があり、背面は暗褐色、腹面は黒といった色彩をしているのが特徴です。

分類と歴史

ヒシカラスザメは、1953年に著名な海洋生物学者であるHenry B. Bigelow、William C. Schroeder、およびStewart Springerによって正式に記載されました。彼らの研究は『Bulletin of the Museum of Comparative Zoology at Harvard University』に発表されており、タイプ標本はメキシコ湾北部の403m深から得られたもので、全長20.3cmのオスでした。種名の「virens」は、ラテン語で「緑」を指し、多くの生物に見られる緑色の光を示唆しています。

生息地と分布

この種は、主に西部大西洋の上部大陸斜面に分布し、その生息域はテキサス、フロリダ、キューバ、ユカタン半島を含みます。また、カリブ海ではホンジュラス、ニカラグア、パナマ、ベネズエラにも生息していると言われています。一般的には350m以深の底生環境に生息し、196mから915mまでの深度で観察されています。

体の特徴

ヒシカラスザメの体は細長く、吻は短く丸い形状をしています。目が非常に大きく、視力に優れていると考えられています。鼻孔には短い前鼻弁があり、歯列は上顎29-34、下顎24-32の範囲とされ、個々の歯は細い尖頭を持ち、互いに結合して刃状の構造を形成しています。胸鰭は幅広く丸い形をしており、第一背鰭は胸鰭の後端からしっかりと伸びています。

体側には頑丈で棘状の皮歯が不規則に配列され、体全体を覆っている部分も多く見受けられます。背面は暗褐色から灰色であり、腹面は黒く、暗い模様が目立ちます。特に、腹鰭の上部から後方にかけては黒い模様があり、尾にも薄い黒の模様が見られ、これらの模様の中には発光器が多数存在しています。

生態と行動

ヒシカラスザメは、発光器を利用してカウンターイルミネーションを行い、捕食者から身を守る能力を持っています。また、松果体上部に存在する黄色い点が光の強さを感知し、捕食行動を助けていると考えられています。散発的に漁獲されることはありますが、群れで移動するため、捕獲時には一度に大量に捕まることが多いです。この発光器は、同種間でのコミュニケーションにも役立っている可能性があります。

主な食物にはイカやタコが含まれ、胃の中からは大きな眼や嘴が発見されることから、比較的広げた口で捕食する能力を持つと推測されています。ただし、自身より大きな獲物を捕食する方法は詳細には解明されていません。

環境への影響

ヒシカラスザメは深海漁業においても比較的多く混獲される事例が見られますが、小型のため商業的価値は低いとされています。生態系に特に大きな脅威の要因は存在せず、IUCNによってその保全状況は「軽度懸念」と評価されています。しかし、情報の不足から漁業の拡大に際しては、注意が必要とされているのが実情です。

ヒシカラスザメは、独特な生態と特徴を有する深海性のサメであり、今後もその生態についての研究が期待されています。

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