ヒズ・ガール・フライデー

『ヒズ・ガール・フライデー』(1940年)は、ハワード・ホークス監督による、軽妙洒脱な会話劇とテンポの良い展開が特徴的なスクリューボール・コメディの代表作です。ケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルというハリウッドを代表する名優2人が織りなす、痛快でロマンティックな物語は、多くの映画ファンを魅了し続けています。

物語は、ニューヨークの大手新聞社の編集長ウォルター・バーンズと、かつて彼の妻だった敏腕記者ヒルディ・ジョンソンを中心に展開します。離婚後、穏やかな生活を求めて故郷を離れようとするヒルディでしたが、ウォルターは彼女の出発を阻止。重大な事件の取材にヒルディを巻き込みます。

事件とは、死刑囚アール・ウィリアムズの取材でした。当初は取材を拒否していたヒルディでしたが、ウォルターの巧みな策略と事件の真相に惹かれ、再び新聞記者の本能を燃やし始めます。取材を進める中で、ヒルディは事件の裏に潜む政治的な陰謀に気づき、正義を貫こうと奔走します。

一方、ウォルターはヒルディの再婚相手であるブルースを、様々な策略で拘留させ続け、ヒルディを新聞社に縛り付けようとします。2人は協力して、事件の真相解明とスクープ獲得に全力を注ぎ、市長や保安官らとのスリリングな攻防を繰り広げます。

映画の見どころは、なんといってもケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルによる、息もつかせぬ早口の会話劇です。2人の軽妙な掛け合いは、映画全体を盛り上げ、観客を笑いの渦に巻き込みます。彼らの巧みな演技と、絶妙なテンポのせりふ回しは、スクリューボール・コメディの真髄と言えるでしょう。

また、この作品は、ハワード・ホークス監督が好んで描いた「ホークス的女性像」を体現するキャラクター、ヒルディ・ジョンソンが登場する点も注目に値します。自立心が強く、男性社会で活躍する女性である一方で、最後は男性に寄り添うという複雑な女性の心を繊細に描いています。

映画のタイトル『ヒズ・ガール・フライデー』は、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』に登場するフライデーに由来し、「彼のお気に入りの女性」という意味合いを持っています。これは、ウォルターにとってヒルディがかけがえのない存在であることを示唆していると言えるでしょう。

『ヒズ・ガール・フライデー』は、ベン・ヘクトとチャールズ・マッカーサーの戯曲『フロント・ページ』を原作とする作品です。1931年には『犯罪都市』として映画化されていますが、『ヒズ・ガール・フライデー』では主人公を女性に変更するなど、原作を大胆にアレンジすることで、新たな魅力を生み出しています。この大胆な改編は、女性活躍の視点を取り入れた現代的な解釈とも言えます。

1974年には、ビリー・ワイルダー監督によって『フロント・ページ』として再び映画化されていますが、『ヒズ・ガール・フライデー』の軽快なテンポとロマンティックな要素は、多くの観客の心をつかみ、長く愛され続ける名作となっています。アメリカ国立フィルム登録簿にも登録されており、その価値は高く評価されています。この映画は、ハリウッド黄金期の輝きと、スクリューボール・コメディの魅力を存分に味わえる、まさに不朽の名作と言えるでしょう。

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