ヒッパルコス (人工衛星)

ヒッパルコス衛星の概要

ヒッパルコス (Hipparcos) は、1989年に欧州宇宙機関が打ち上げた初の位置天文衛星で、その運用は1993年まで続けられました。衛星名は古代ギリシアの天文学者ヒッパルコスに由来しており、正式名称は「HIgh Precision PARallax COllecting Satellite」の略です。この衛星の主な目的は、宇宙空間の影響を受けない環境で恒星の位置を精密に測定することでした。

衛星の設計と運用

ヒッパルコスは、約1,400kgの質量を持つ六角柱状の構体に太陽電池パドルを備えており、アリアンロケットV33号によって打ち上げられました。打ち上げ時、一緒にドイツの放送衛星であるTVSAT-2も運ばれましたが、アポジモーターの故障により本来の静止軌道には到達できず、楕円軌道を周回することになりました。言うまでもなく、運用スタッフはこの状況にもかかわらず、4ヶ月間の努力で観測システムを再構築し、大部分のデータを問題なく取得しました。

取得データと観測精度

ヒッパルコスは、1993年の観測終了までの間に、全方位の恒星観測を行い、118,218個の恒星から成るヒッパルコス星表を作成しました。この衛星は主に9等級よりも明るい星に対して平均0.001秒角という非常に高い精度で位置および年周視差を測定しました。これにより、地球からの距離が100パーセク以下の多くの星の距離を、約10%の誤差で決定することが可能となりました。これに含まれるのは、20853個の星が誤差10%以内で観測され、固有運動については0.001秒角/年の精度で測定されました。

衛星はまた、補助観測装置を用いてティコ実験と呼ばれる観測を行い、二色光度のデータを収集しました。これにより、1,058,332個の星が掲載されたティコ星表が作成され、さらにデータの再解析を行うことで約250万個の星の情報を網羅したティコ第二星表も発表されました。

科学的意義と研究への影響

ヒッパルコスによる正確な恒星位置の測定は、天文学的見地から非常に重要な成果をもたらしました。特に、正確に測定された星の数が増加することで、ヒルクスエンジニア図（HR図）の解析が向上し、恒星の構造や進化についての研究が進展しました。また、恒星の距離と運動速度を統計的に扱うことにより、太陽系近傍の銀河円盤の構造の研究も促進されました。

これらの研究は、宇宙の距離梯子の理解に重要な貢献をすることとなりました。ヒッパルコス衛星のプロジェクトマネージャーであったマイケル・ペリマンは、2007年までに得られた研究成果をまとめた書籍を出版しました。

後継計画

ヒッパルコスの精度は素晴らしいものの、観測できた距離は地球から約100パーセク以内の星に限られており、天の川銀河の規模に比べるとかなり限られていました。また、星は固有運動により位置が変化しているため、観測誤差により現在の星の推定位置の誤差が増大することが懸念されています。このため、より高精度な観測を実施する必要性が生まれました。これを受けて、欧州宇宙機関はガイア計画を、また日本の国立天文台はJASMINE計画を推進しています。

このように、ヒッパルコス衛星は宇宙観測の歴史において重要な一歩を踏み出し、その成果は今後の観測技術の向上に寄与することでしょう。

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