ヒトメタニューモウイルス

ヒトメタニューモウイルス（hMPV）とは

ヒトメタニューモウイルス（human metapneumovirus; hMPV）は、2001年にオランダの研究グループによって発見された、比較的新しいウイルスです。このウイルスは、ニューモウイルス科メタニューモウイルス属に分類され、鳥に感染するトリニューモウイルスと遺伝子配列が最も類似しています。ヒトに感染するウイルスの中では、RSウイルスと遺伝子構造や臨床症状が似ていることが特徴です。hMPVは、以前から環境中に存在していた常在ウイルスと考えられていますが、検出技術の進歩によってその存在が明らかになりました。

ウイルスの特徴

hMPVは、一本鎖のマイナスRNAウイルスであり、13.35kbのゲノムを持っています。ウイルスの大きさは150〜600nmと幅があり、多形性または球形の形状をしています。エンベロープを持ち、表面には13〜17nmの突起構造が見られます。遺伝子構成は、N-P-M-F-M2-SH-G-Lの8個の遺伝子からなり、この配列はウイルスの複製と感染に重要な役割を果たします。

感染症像

hMPVは、主に乳幼児の気管支炎を引き起こす一般的な原因ウイルスの一つです。特に春先（3月から6月頃）に流行が見られ、生後6ヶ月から2歳までに約50%、5歳までに約75%の子どもが感染するとされています。一度感染しても十分な免疫が得られないため、何度も再感染する可能性があります。感染力は強く、高齢者施設や障害者施設などでも集団感染が起こりやすいです。また、コクサッキーウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスなど他のウイルスとの重複感染も報告されています。

多くの感染者は無症状または風邪のような軽症で済みますが、乳幼児、高齢者、免疫力の低下した人、心肺疾患を持つ人では、気管支炎や肺炎などの重症化するリスクがあります。重症例では、5日程度の高熱が続き、喘鳴（ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音）や呼吸困難を伴うことがあります。発熱が長引く場合は、中耳炎や下気道への細菌感染を併発している可能性も考慮する必要があります。

潜伏期間は4〜6日程度で、発熱後1〜4日の間に最もウイルスを排泄し、その後1〜2週間程度ウイルス排出が続きます。

診断

hMPVの診断は、臨床症状と検査によって行われます。検査方法としては、鼻腔洗浄液や拭い液を用いた迅速抗原検査、逆転写PCR検査、ウイルス培養などがあります。

症状

hMPV感染による主な症状は、細気管支炎や肺炎であり、38℃以上の発熱、咳、鼻水が多く、ラ音や喘鳴が特徴的です。これらの症状から、喘息様気管支炎と診断されることもあります。まれに急性脳症を引き起こすこともあります。

治療

hMPV感染症に対する治療は、症状を和らげる対症療法が中心です。喘鳴や呼吸困難、脱水症状に対しては、必要に応じた治療が行われます。発熱が長引く場合は、中耳炎や細菌性気管支炎、肺炎の合併を疑う必要があります。特に、水分が摂れない、夜に眠れない、発熱が5日以上続く場合は、再度医療機関を受診することが推奨されます。

予防

現在、hMPVに対するワクチン開発が進められていますが、実用化には至っていません。hMPVは、飛沫感染と手指を介した接触感染によって感染が広まります。感染力が強く、軽症の感染者が日常生活を送る中で感染を広げるため、保育園や幼稚園、家庭内での感染を防ぐことが難しいとされています。手洗いやうがい、咳エチケットなどの基本的な感染対策を徹底することが重要です。

もう一度検索