ヒマラヤスギ

ヒマラヤスギ（ヒマラヤ杉）の詳細解説

ヒマラヤスギ（学名：Cedrus deodara）は、マツ科ヒマラヤスギ属に分類される常緑針葉樹の高木です。その名の通り、ヒマラヤ山脈西部からアフガニスタンにかけての標高1500mから3200mの地域を原産地としています。世界的に知られるようになったのは、19世紀にイギリス人がこの地域を訪れたことがきっかけで、日本には1879年にイギリス人によって種子が持ち込まれました。

形態と生態

ヒマラヤスギは、原産地では高さ50m、幹の直径3mにも達する高木に成長します。樹冠は端正な円錐形をなし、水平に伸びる枝と垂れ下がる小枝が特徴的です。下枝は地面近くまで伸びることもあります。樹皮は灰黒色で、縦に細かく割れ目が入ります。枝には長枝と短枝があり、雄花と雌花の冬芽は短枝の先端に形成されます。葉の付け根には葉芽があり、褐色の鱗芽に覆われています。

葉はカラマツに似た細長い針状で、やや灰色がかった青緑色をしています。長枝の葉はらせん状につき、長さは2.5cmから5cmが一般的ですが、時には7cmに達することもあります。厚さは約1mmです。芽は単独で生えるものと、20～30個がまとまって生じるものがあり、色は明るい緑から青緑に変化します。

花期は10月から11月で、雌花の松かさは樽形をしています。長さ7cmから13cm、幅5cmから9cmで、成熟すると崩壊して翼状の種子を落とします。雄花の松かさは4cmから6cmで、秋に花粉を放出します。

文化的な意義

ヒマラヤスギは、ヒンドゥー教において聖なる木として崇拝されてきました。古代インドの賢者がこの木の下で瞑想し、神に祈りを捧げたと伝えられています。ヒンドゥー神話やシヴァ神信仰の文書では、ヒマラヤスギの森は「Darukavana」という聖地として言及されています。また、パキスタンでは国の木として指定されています。

栽培と利用

ヒマラヤスギは、美しい樹形から園芸植物として広く利用され、公園や庭園に植えられています。栽培には温暖な気候が適しており、-25℃以下の寒さには耐えられません。生育に適しているのは、ハーディネスゾーン8以上の地域です。ヨーロッパ南部、地中海沿岸、中国中南部、北米の一部などで栽培されており、日本では盛岡市以南の地域で植えられています。

寒さに強い品種としては、「Eisregen」、「Eiswinter」、「Karl Fuchs」、「Kashmir」、「Polar Winter」、「Shalimar」などが知られています。これらの品種は、カシミールやパクティヤー州などの寒冷地で生育しています。

建築材料としては、耐久性と耐腐朽性に優れており、緻密な木目は磨くと美しい光沢を放ちます。歴史的には、寺院やその周辺の造園に多く用いられました。腐りにくい性質は、カシミールの水上家屋にも適しています。イギリス領時代には、バラックや公共施設、橋、鉄道車両などにも広く利用されました。ただし、耐久性がある一方で壊れやすい性質から、椅子のような精密な加工には向いていません。

また、ニューヨーク市では、ヒマラヤスギで作られた給水塔が街の景観の一部となっています。

薬用と香料としての利用

ヒマラヤスギは、アーユルヴェーダにおいて薬効があるとされています。木材には芳香があり、香料として利用されています。精油は防虫効果があり、家畜の足に使われたり、カビを防ぐ効果も期待されています。樹皮と幹には収れん作用があります。

セダー油はアロマテラピーで利用され、特徴的な木の香りがリラックス効果をもたらします。天然のオイルは黄色から黒っぽい色をしており、石鹸、家庭用スプレー、床磨き剤、殺虫剤、顕微鏡用洗剤などにも利用されています。

保全状況

ヒマラヤスギは、IUCNレッドリストで軽度懸念（Least Concern）に分類されています。しかし、1998年の評価から更新が必要とされており、今後の保全状況を注視する必要があります。

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年
辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社、2006年

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