ヒメチョウゲンボウ

ヒメチョウゲンボウ（姫長元坊、学名: Falco naumanni）は、ハヤブサ目ハヤブサ科ハヤブサ属に分類される小型の鳥類です。この鳥は、ユーラシア大陸の西部で繁殖し、冬季にはアフリカ大陸中部以南へ渡って越冬するという、季節的な移動を行うことで知られています。

分布
ヒメチョウゲンボウは、夏季にユーラシア大陸の中緯度地域西部で繁殖します。繁殖を終えた後、冬季にはアフリカ大陸の中部から南部にかけての地域に移動し、越冬します。日本では、ごくまれに迷鳥として記録されることがあります。対馬、西表島、与那国島、高知県などでその姿が確認されていますが、いずれも定着はしていません。

形態
ヒメチョウゲンボウの全長は29cmから32cm、翼を広げた際の幅は61cmから66cm程度です。体の下面は淡い褐色で、黒い斑点が入っています。翼の先端部分にあたる初列風切と次列風切は黒色をしています。目の周りには黄色い輪のような模様（アイリング）があり、この鳥の特徴的な外見を形成しています。また、嘴とその上を覆う肉質の部分（蝋膜）は黄色で、嘴の先端は黒くなっています。足は黄色で、爪の色は淡黄色か白色です。

オスの成鳥は、体の上面が青みがかった灰色の羽毛で覆われます。一方、メスの成鳥や幼鳥は、体の上面が赤褐色の羽毛で覆われているのが特徴です。頭部や頸部には黒い縦縞が入り、背中、雨覆、尾羽には黒い横縞が見られます。これらの羽毛の模様は、性別や年齢によって異なるため、個体識別をする上で重要な要素となります。

生態
ヒメチョウゲンボウは、草原や開けた農耕地といった、見通しの良い環境に生息します。越冬地では群れを形成することが多く、集団で行動します。食性は動物食で、主に昆虫類を捕食します。その他にも、小型の哺乳類や鳥類も食べることがあります。特に越冬地では、集団で獲物を捕らえる様子が観察されています。

繁殖期には、崖の岩穴や樹洞、建物などにコロニーを形成し、集団で繁殖を行います。産卵は5月から6月にかけて行われ、一度に3個から5個の卵を産みます。卵は28日ほど抱卵され、雛は孵化後26日から28日ほどで巣立ちます。

人間との関係
ヒメチョウゲンボウは、農薬の使用による獲物の減少や環境汚染などの影響により、生息数が減少していると考えられています。1980年代の調査では、スペインで4,200から5,100ペア、ギリシャで約2,000ペア、イタリアで320から400ペア、ルーマニアで120から130ペアなどが生息していると推定されていました。これらのデータからもわかるように、ヨーロッパの一部地域では比較的多く生息しているものの、全体としては減少傾向にあるため、保護の必要性が指摘されています。

参考文献
五百沢日丸 『日本の鳥550 山野の鳥 増補改訂版』、文一総合出版、2004年、60頁。
小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』、講談社、2000年、85、188頁。
高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会、2007年、182-183頁。
真木広造、大西敏一 『日本の野鳥590』、平凡社、2000年、181頁。
黒田長久編監修　『改訂新版 世界文化生物大図鑑 鳥類』　世界文化社、2004年、97頁。
日高敏隆監修 樋口広芳・森岡弘之・山岸哲編　『日本動物大百科 第3巻 鳥類Ⅰ』　平凡社、1996年、175頁。

関連項目
ハヤブサ科
ハヤブサ属

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