ヒューリスティック評価

ヒューリスティック評価とは

ヒューリスティック評価（Heuristic evaluation）は、ユーザーインターフェース（UI）のユーザビリティを検査する手法の一つです。この評価では、専門家がUIを分析し、広く認められたユーザビリティの原則（ヒューリスティクス）に照らし合わせて、問題点を特定します。特に、短期間でUI設計を行う必要のあるニューメディアの分野では、ユーザビリティテストに十分な予算を割けないケースが多いため、ヒューリスティック評価が有効な手段となります。

主な目的

ヒューリスティック評価の主な目的は、UI設計におけるユーザビリティの問題点を明らかにすることです。この評価によって、ユーザーがインターフェースを快適かつ効率的に利用する上で妨げとなる要素を早期に発見し、改善することができます。

開発の経緯

この評価方法は、ユーザビリティコンサルタントのロルフ・モリッチとヤコブ・ニールセンによって開発されました。彼らは、ユーザビリティエンジニアリングの教育・コンサルティング経験に基づいて、この簡便な評価手法を考案しました。

メリット

ヒューリスティック評価は、ユーザーテストを実施する前に、設計の初期段階で有効です。ユーザーを必要としないため、被験者の募集や日程調整、報酬の支払いといった負担を軽減できます。また、評価に必要な期間は数日程度と短く、迅速に結果を得ることが可能です。さらに、ユーザーテストを行う前に問題点を洗い出すことで、テストの効率を高めることもできます。

デメリット

ヒューリスティック評価は、専門家の知識に大きく依存するため、評価者の経験や専門性が結果に影響を与える可能性があります。また、ユーザーテストと比べて、実際のユーザーの行動や反応を直接的に把握することはできません。

ヒューリスティックの例

ヒューリスティック評価では、様々なユーザビリティ原則が用いられます。以下に、代表的なヒューリスティックの例をいくつか紹介します。

ニールセンの10原則

ヤコブ・ニールセンの10原則は、最も広く知られたユーザビリティヒューリスティックの一つです。

1. システム状態の視認性: システムの状態を常にユーザーに知らせ、適切なフィードバックを提供する。
2. システムと現実世界の一致: ユーザーが理解しやすい言葉や概念を使用し、現実世界の慣習に従う。
3. ユーザーの主導権と自由: 誤操作からの回復を容易にし、「元に戻す」機能などを提供する。
4. 一貫性と標準: 同じ意味を持つ要素には同じ表現を使用し、プラットフォームの標準に従う。
5. エラー防止: エラーが発生しやすい状況を回避し、エラーが発生する前に確認を促す。
6. 想起より認識: ユーザーの記憶負荷を軽減するため、必要な情報を視覚的に表示する。
7. 使用の柔軟性と効率性: 初心者と熟練者の両方が快適に使えるように、ショートカットなどの機能を提供する。
8. 美的で最小限の設計: 関連性の低い情報を排除し、見やすく整理されたデザインにする。
9. エラー認識、判断、回復の援助: エラーメッセージを分かりやすく提示し、解決策を提案する。
10. ヘルプとドキュメント化: 必要に応じてヘルプやドキュメントを提供し、検索しやすく使いやすいものにする。

ゲルハルト=ポワルズの認知工学的原則

ジル・ゲルハルト=ポワルズは、人間とコンピュータのパフォーマンスを向上させるための認知工学的な原則を提唱しました。これらの原則は、ニールセンのヒューリスティックを補完するもので、より包括的な評価を可能にします。

不要な作業負荷を自動化する: 計算や比較など、不要な思考を排除し、認知リソースを高次のタスクに集中させる。
不確実性を減らす: データをわかりやすく表示し、判断に要する時間やエラーを減らす。
データをまとめる: 低次のデータを高次の要約にまとめ、認知負荷を軽減する。
解釈を有意義に支援する新しい情報を提示する: 新しい情報を使い慣れた枠組みで提示し、吸収しやすくする。
機能に関連する名前を使用する: 表示名とラベルを文脈に適したものにし、想起と認識を向上させる。
一貫した意味のある方法でデータをまとめる: 画面内や画面間でデータを論理的にグループ化し、情報探索の時間を短縮する。
データ駆動型タスクを制限する: 色やグラフィックを活用し、生データを吸収するための時間を短縮する。
所定の時間にユーザーが必要とする情報のみを表示する: ユーザーが重要なデータに集中できるよう、関係のない情報を除外する。
必要に応じ、複数のコーディングのデータを提供する: 認知の柔軟性を高め、ユーザーの好みに応じてさまざまな形式でデータを提供する。
賢明な冗長性を実践する: 一貫性を保つために、必要以上の情報を記載する場合がある。

WeinschenkとBarkerの分類

スーザン・ワインシェンクとディーン・バーカーは、様々なヒューリスティックを20のタイプに分類しました。

ユーザー制御: ユーザーがシステムを制御でき、状況を理解できること。
人間の限界: ユーザーの認知、視覚、聴覚、触覚、運動能力に過度な負荷をかけないこと。
モダリティの統合: タスクに最適なモダリティ（視覚、聴覚、運動など）を使用すること。
順応性: ユーザーの作業方法や考え方に適応すること。
言語の明快さ: 効率的なコミュニケーションを実現すること。
美的整合性: 魅力的で適切なデザインにすること。
単純性: 要素を単純に表示すること。
予測可能性: ユーザーがシステム動作を予測できるようにすること。
解釈性: ユーザーが意図を推測できるようにすること。
正確度: エラーがないこと。
技術的明快さ: 高い忠実度を実現すること。
柔軟性: カスタム使用のためにデザインを調整できるようにすること。
充足感: 満足のいくユーザー体験を提供すること。
文化的性質: ユーザーの習慣や期待に沿うこと。
適切なテンポ: ユーザーに合った速度で動作すること。
一貫性: 矛盾がないこと。
ユーザーサポート: 必要に応じて追加の支援を提供すること。
精度: ユーザーが正確にタスクを実行できるようにすること。
許容性: アクションを元に戻せるようにすること。
反応性: ユーザーに結果と状態を知らせること。

まとめ

ヒューリスティック評価は、UI設計の初期段階で、ユーザビリティの問題点を効率的に発見するための有効な手段です。様々なヒューリスティックを参考にしながら、専門家がUIを評価することで、より使いやすいインターフェースの実現に貢献します。

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