ヒュー・オブライエン

ヒュー・オブライエン（本名：ヒュー・チャールズ・クランペ）は、1925年4月19日にニューヨーク州ロチェスターに生を受け、2016年9月5日にその生涯を閉じた、アメリカ合衆国の俳優です。特に、テレビ西部劇の古典となった『保安官ワイアット・アープ』での主演により、その名は広く知られるようになりました。

彼の歩んだ道はユニークです。学生時代はイリノイ州のニュー・トライアー・ハイスクールで学び、その後ケンパー・ミリタリー・スクールに進みました。このミリタリースクールでは、単なる勉学に留まらず、アメリカンフットボールやバスケットボール、レスリング、陸上競技といった様々なスポーツで才能を発揮し、優秀な選手として活躍しました。シンシナティ大学に入学したものの、第二次世界大戦の勃発を受けてわずか1学期で中退し、海兵隊に入隊します。軍隊では異例のスピードで昇進し、わずか17歳という若さで訓練教官を務めるという、その並外れた能力を示しました。

終戦後、ロサンゼルスに移り住んだオブライエンは、UCLAで学業を続けました。このロサンゼルス滞在中に、女優・監督として名高いアイダ・ルピノの目に留まります。これが彼の俳優キャリアの始まりとなり、ルピノが手がけた映画『Never Fear』でスクリーンデビューを果たしました。

俳優として脚光を浴びたのは、主にテレビの世界でした。1955年に放送が開始された米ABCのテレビシリーズ『保安官ワイアット・アープ』で、彼はタイトルロールを演じました。この番組は、同じ年に始まった『ガンスモーク』と並んで、従来の西部劇とは一線を画す、より成熟したテーマを扱った作品として評価され、そのジャンルの地位を確立しました。実に7年間にわたって放送され続け、常にテレビ番組の視聴率ランキングでトップ10を維持するほどの絶大な人気を誇りました。この他にも、『ザ・グレイテスト・ショー・オン・アース』といったシリーズに出演したほか、人気のクイズ番組『パスワード』や『ホワッツ・マイ・ライン？』にはゲスト解答者として度々登場しました。また、『ペリー・メイスン』では、主演のレイモンド・バーが緊急入院した際に、急遽代役として弁護士役を演じたこともあります。

映画界でも多くの作品に出演しており、特にジョン・ウェインの最後の出演作となった『ラスト・シューティスト』への出演は、彼のキャリアにおける重要な転換点の一つとされています。後に、彼は再びワイアット・アープ役を演じる機会を得ました。1990年の『ガンズ・オブ・パラダイス』と1991年の『ザ・ギャンブラー・リターンズ ザ・ラック・オブ・ドロー』でこの役を再演した際には、『保安官ワイアット・アープ』でバット・マスターソン役を演じたジーン・バリーも同じ役で出演し、話題となりました。その他、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のコメディ映画『ツインズ』（1988年）にも登場しています。

長年の俳優としての功績が認められ、ハリウッドの殿堂であるハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに彼の名前が刻まれました。さらに、西部劇のジャンルへの貢献を称えられ、1992年には西部劇俳優の殿堂入りも果たしています。

俳優業の傍ら、社会貢献活動にも力を入れていました。HOBY（Hugh O'Brien Youth Leadership）という非営利団体を設立・主宰し、全米50州だけでなく世界20カ国の高校生を対象に、リーダーシップ能力や自己肯定感を育むためのプログラムを提供しました。この活動のきっかけは、彼が1958年にアフリカを訪れた際に、アルベルト・シュヴァイツァー博士から受けた「一番大事なのは、若者が自分自身について考えるための教育である」という言葉に深く感銘を受けたことだと言われています。

個人的なエピソードとしては、1965年10月に日本を訪問した記録があります。また、1975年4月1日にはラスベガスでのエルヴィス・プレスリーの公演中に紹介され、その様子はライブCD『エイプリル・フール・ディナー』に収められています。そして、2006年6月25日、81歳という高齢で人生初の結婚をしたことも特筆されます。

ヒュー・オブライエンは、2016年9月5日にカリフォルニア州ビバリーヒルズの自宅にて、91歳でその波瀾万丈な生涯に幕を下ろしました。俳優として、そして若い世代の育成に情熱を注いだ慈善家として、多くの人々の記憶に残る人物です。

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