ヒュー・シートン＝ワトソン

ヒュー・シートン＝ワトソン（George Hugh Nicholas Seton-Watson, 1916年2月15日 - 1984年12月19日）は、イギリスを代表する歴史学者であり、政治学者としても知られています。彼の専門はロシア史と東欧史であり、この分野において多大な貢献をしました。また、セトン＝ワトソンと表記されることもあります。

ロンドンで生まれたシートン＝ワトソンは、1938年にオックスフォード大学を卒業しました。第二次世界大戦中は、イギリス外務省および軍の一員として、ユーゴスラビア、ルーマニア、エジプト、トルコなど、様々な地域で活動しました。戦後、オックスフォード大学を経て、1951年から1983年までロンドン大学で教鞭を執り、後進の指導にあたりました。彼の学術的な業績は高く評価され、1981年には大英帝国勲章を、1983年にはエセックス大学より名誉博士号を授与されています。

シートン＝ワトソンの研究の中でも特に重要なのは、著書『Nations and states』で提示された「公定ナショナリズム（official nationalism）」という概念です。これは、国家が国民の忠誠心を醸成するために意図的に推進するナショナリズムの形態を指します。この概念は、ベネディクト・アンダーソンが『想像の共同体』で取り上げたことで、広く知られるようになりました。シートン＝ワトソンのこの概念は、ナショナリズム研究において非常に重要な視点を提供し、その後の研究に大きな影響を与えました。

彼の著作は、東欧史、ロシア史、共産主義運動史、ナショナリズム研究など、多岐にわたります。主な著作としては、『Eastern Europe between the wars 1918-1941』（1945年）、『The East European revolution』（1950年）、『The decline of Imperial Russia, 1855-1914』（1952年）、『The pattern of communist revolution: a historical analysis』（1953年）、『From Lenin to Khrushchev: the history of world communism』（1953年）、『The revolution of our time』（1955年）、『Neither war nor peace: the struggle for power in the post-war world』（1960年）、『The new imperialism』（1961年）、『Nationalism and Communiam: essays 1946-1963』（1964年）、『Nationalism old and new』（1965年）、『The Russian empire, 1801-1917』（1967年）、『Nations and states: an enquiry into the origins of nations and the politics of nationalism』（1977年）、『The imperialist revolutionaries: trends in world communism in the 1960s and 1970s』（1978年）、『The making of a new Europe: R.W. Seton-Watson and the last years of Austria-Hungary』（1981年）などが挙げられます。

これらの著作を通じて、シートン＝ワトソンは、歴史的視点から政治現象を分析し、複雑な国際関係やイデオロギーの変遷を解き明かしました。彼の研究は、単なる歴史の記述にとどまらず、現代社会の政治現象を理解するための重要な手がかりを提供しています。特に、「公定ナショナリズム」の概念は、現代のナショナリズムのあり方を考察する上で、今なお重要な意味を持ち続けています。

シートン＝ワトソンは、学術的な研究だけでなく、実務経験も豊富であり、その両方を兼ね備えた稀有な人物でした。彼の歴史的、政治的な分析は、学問の世界だけでなく、現実の政治や社会においても大きな影響を与えました。彼の業績は、現代の社会科学研究においても、重要な礎となっています。

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