ヒルデブラントの歌

『ヒルデブラントの歌』：英雄叙事詩の断片

『ヒルデブラントの歌』（Das Hildebrandslied）は、ゲルマン民族の英雄叙事詩として知られる作品です。現存する唯一のドイツ語による頭韻詩であり、その断片的ながらも力強い物語は、古代ゲルマンの文化や価値観を垣間見せてくれます。

物語の概要

物語は、老いた武将ヒルデブラントが、帰郷の途中で若き武将ハドゥブラントに出会う場面から始まります。ヒルデブラントはハドゥブラントに名乗りを求めますが、ハドゥブラントは、父は自分と母を捨て、東のテオドリック王のもとに逃亡して死んだと答えます。そこでヒルデブラントは、自分が彼の父であると告げますが、ハドゥブラントはそれを敵を欺く策略だと嘲笑し、二人は戦うことになります。しかし、現存する写[[本]]は、二人が槍を交える場面で終わっており、物語の結末は不明です。

写[[本]]と方言

この詩は、9世紀の羊皮紙写[[本]]の余白に、830年代に書き込まれたものです。写[[本]]は二人の人物によって書かれており、文字は主にカロリング小文字体で書かれています。特筆すべきは、この詩が東フランク語と古ザクセン語の混在した方言で書かれている点です。この混在の理由は明確ではありませんが、写[[本]]の筆者が書き写した原本にすでに存在していたと考えられています。当初、原本は古ザクセン語で書かれていたと考えられていましたが、現在では古高ドイツ語であったとする説が有力です。

歴史的背景と類話

ヒルデブラント自身が歴史上の人物であったという証拠はありませんが、この物語は5世紀末頃の歴史的な出来事、すなわち東ゴート王国のテオドリック王と、オドアケルの戦いを背景としていると考えられています。また、同様の父子の対決を描いた物語は、北欧の『シズレクのサガ』や『勇士殺しのアースムンドのサガ』など、各地に存在しています。

『ヒルデブラントの歌』が持つ意味

『ヒルデブラントの歌』は、未完の作品でありながら、古代ゲルマンの英雄叙事詩の貴重な断片として、今日まで大切に保存されてきました。父と子の葛藤、運命の残酷さ、そして戦士の誇りといった普遍的なテーマは、時代を超えて人々の心を捉えます。この詩は、単なる文学作品としてだけでなく、古代ゲルマンの文化や歴史を理解するための重要な資料としても、高く評価されています。

参考文献

Althochdeutches Lesebuch, ed. W.Braune, K.Helm, E.A.Ebbinghaus, 17th edn, Tübingen 1994.
J. Knight Bostock, A Handbook on Old High German Literature, 2nd edn, revised by K.C.King and D.R.McLintock, (Oxford 1976)
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Cyril Edwards, "Unucky Zeal: The Hildebrandslied and the Muspilli under the Acid" in The Beginnings of German Literature (Camden House, 2002)
Opritsa D. Popa: Bibliophiles and bibliothieves : the search for the Hildebrandslied and the Willehalm Codex. Berlin 2003.
『サガ選集』日本アイスランド学会編訳、東海大学出版会、1991年。
サクソ・グラマティクス『デンマーク人の事績』谷口幸男訳、東海大学出版会、1993年。
F.マルティーニ 著『ドイツ文学史』高木実、尾崎盛景、棗田光幸、山田広明 共訳、三修社、1979年。
高橋輝和 編訳『古期ドイツ語作品集成』渓水社、2003年。
吉島茂・井上修一・鈴木敏夫・新井皓士・西山力也 編訳『ドイツ文学　歴史と鑑賞』朝日出版社　1973、2-3頁。

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