ヒル・トップ

ヒル・トップは、英国カンブリア州のニア・ソーリーに位置する、17世紀に建てられた歴史的な建造物です。ホークスヘッド近郊にあるこの家は、湖水地方特有の石積みの壁とスレート屋根を持つ、典型的な建築様式を示しています。児童文学作家で挿絵画家でもあったビアトリクス・ポターがかつて所有し、彼女の死後、ナショナル・トラストに寄贈されました。ポター自身の意向に基づき、現在では作家の記念館として広く一般に公開されており、英国の指定建造物リストではグレードII*に指定されています。ヒルトップ農園もまた、ポターの絵本に描かれた世界観に合わせて維持管理されており、訪れる人々にその魅力を伝えています。

背景

この地は、特に『ピーターラビット』シリーズをはじめとする一連の小型絵本で世界的に知られるビアトリクス・ポターが所有していた場所です。ポターは1905年、ロンドンの喧騒から離れた自宅兼創作の場として、この家と約14ヘクタール（34エーカー）の農場を購入しました。1943年に彼女が亡くなると、その遺志により家屋を含む敷地全体がナショナル・トラストへ委ねられました。ヒル・トップとその農場、そして近くの村は、ポターの代表作である『パイがふたつあったおはなし』、『こねこのトムのおはなし』、『あひるのジマイマのおはなし』、『ひげのサムエルのおはなし』など、多くの物語の舞台として描かれています。

農場は、ポターの信頼する管理人ジョン・キャノンによって運営されていました。家屋の左側にある増築部分は、1906年にポターがキャノン一家のために建てたものです。『あひるのジマイマのおはなし』は、この農場で暮らしていた彼の子供たち、ラルフとベッツィー、そしてその母親に捧げられています。絵本に登場する子供たちの姿は、彼らがモデルとなっています。

館内の見どころ

ヒル・トップの内部は、ポターが暮らしていた当時の様子が再現されており、彼女の生活や創作活動を垣間見ることができます。特に多くの部屋が、ポターの作品にそのまま描かれているため、絵本の世界を体験できます。

エントランスホール（キッチン）

この部屋は、ポターのイラストに度々登場することで知られています。オリジナルの石張りの床は、一度撤去されたものの1983年に同じ様式で復元されました。室内には1785年頃のロングケースクロック、チッペンデール様式の椅子、ジョージアンスタイルのドレッサー、17世紀のオーク材プレス戸棚などが置かれており、これらはポターの絵の一部にも描かれています。暖炉の右側には、かつて存在した螺旋階段の名残を示す食器棚があります。

パーラー

ポターが設えたアダム様式の暖炉が特徴的な部屋です。19世紀初頭の家具が配置されており、吊り戸棚には18世紀のイギリスおよび中国の磁器が展示されています。食器棚には、絵本『パイがふたつあったおはなし』に登場するリビーのものとして描かれた、ポター所有の1902年戴冠式記念ティーポットも見ることができます。

階段と踊り場

ポターの絵本の読者にとって、非常に馴染み深い場所です。手すりとレールは18世紀頃のものと考えられています。踊り場には、ロッチデールのスコフィールド社製のクルミ材のロングケース時計が置かれています。壁には他の美術品が飾られ、敷かれたカーペットは、『ひげのサムエルのおはなし』に登場する描写に合わせて特別に織られたものです。

新しい部屋（図書館）

ビアトリクスが隣接する家屋を建てた際に増築されたため、「新しい部屋」と呼ばれていますが、彼女自身はここを「図書館」として使用していました。部屋には、彼女の弟であるウォルター・バートラム・ポターによる大きな油絵が5枚飾られています。この部屋の窓からは、『ひげのサムエルのおはなし』に描かれたニア・ソーリー村の風景を眺めることができます。

居間

もともとは農家の寝室として使われていましたが、ビアトリクスはこの2階のスペースを、来客との交流や娯楽の場として活用しました。部屋には、Muzio Clementi and Co製のボックスピアノが置かれています。

宝物の部屋

家の中で最も小さな部屋で、元々のオーク材の床板がそのまま残されています。床板の1枚が他のものより短くカットされている箇所があり、これは『ひげのサムエルのおはなし』での出来事の着想源になった可能性が指摘されています。この部屋には、『2ひきのわるいねずみのおはなし』に登場する、ハムが置かれた人形の家や、ポター作品のキャラクターたちのミニチュアブロンズ像が展示された棚など、小さな「宝物」が収められています。

寝室

家の中で唯一の寝室には、1600年代半ばに製作されたと思われる豪華な四柱式ベッドが据えられています。暖炉の周りには、ビアトリクスの夫ウィリアム・ヒーリスによって、二人のイニシャルが彫り込まれています。

家屋の構成

ヒル・トップは、階下に見学可能な3つの部屋（玄関ホール、応接室、洗い場）と、階上に見学可能な4つの部屋（居間、宝物の部屋、寝室、新しい部屋）があります。地下室、踊り場の戸棚、洗面所などは公開されていません。特に洗面所は、配管設備がなく、水を入れたボウルを使って体を洗うための空間でした。

庭園

ヒル・トップの庭園は、『こねこのトムのおはなし』に登場する舞台の一つとして描かれています。敷地内には菜園が設けられていますが、ピーターラビットの物語に登場するマクレガー氏の野菜畑は、ポターがまだヒル・トップを購入する前に描かれたものであり、リングホルムと呼ばれる別の場所の庭園がモデルとなっています。

日本とのつながり

ヒル・トップは、英国を訪れる日本人観光客にとって人気の観光地の一つです。2007年には、その魅力を日本でも伝えるため、埼玉県こども動物自然公園内にヒル・トップの家屋が模築されました。これは「ビアトリクス・ポター資料館」として運営されており、日本の人々にもポターの世界を紹介する役割を担っています。

ヒル・トップ