ビアフラ戦争

ビアフラ戦争：民族対立と大国政治が招いた悲劇

1967年から1970年にかけて、ナイジェリアでは内戦が勃発しました。この戦争は、旧東部州のイボ人による「ビアフラ共和国」の独立宣言をきっかけに始まり、「ビアフラ戦争」あるいは「ナイジェリア戦争」として知られています。独立を拒否したナイジェリア政府による厳しい封鎖は、多くの民間人の餓死を招き、世界に衝撃を与えました。

複雑な民族構造と経済格差

ナイジェリアは、ハウサ人（北部、イスラム教徒中心）、ヨルバ人（西部、イスラム教徒とキリスト教徒が混在）、イボ人（東部、キリスト教徒中心）という主要な3民族に加え、多くの少数民族から構成される多民族国家でした。イギリス植民地時代、イボ人は高い教育レベルと商才で知られ、官僚や軍人に多く進出していました。独立後の1960年代、東部で原油が発見されると、イボ人地域は工業化が進み、他地域との経済格差が拡大しました。この経済格差と民族間の政治的力関係の歪みは、後の紛争の重要な要因となりました。

北部ハウサ人の政治家はヨルバ人の一部政治家と連携して連邦政府を支配しようとし、イボ人の政治的影響力への不満が蓄積していました。1966年にはイボ人主体の軍将校によるクーデターが発生し、北部系の政治家や高級軍人が殺害されました。しかし、クーデターは鎮圧され、イボ人出身のイロンシ将軍が臨時政府を樹立しましたが、北部でのイボ人への反発は強まり、大規模な虐殺が発生しました。イロンシ将軍も暗殺され、北部出身のゴウォン中佐が軍事政権を掌握し、イボ人出身の軍人を排除していきました。

ビアフラ独立宣言と国際社会の反応

北部での迫害は激化し、多くのイボ人が東部州に避難しました。東部州のオジュク中佐は、連邦政府から独立を宣言、1967年5月30日、「ビアフラ共和国」の独立を宣言しました。ナイジェリア政府はこれを認めず、内戦が勃発しました。戦争は当初膠着状態でしたが、1968年以降、ナイジェリア軍はビアフラを包囲、食料や物資の供給を遮断しました。結果として、ビアフラは深刻な飢餓に見舞われました。

この悲惨な状況は世界中の報道機関によって伝えられ、国際的な批判を浴びました。赤十字などの支援団体も活動しましたが、ナイジェリア政府は救援活動を妨害し、飢餓は深刻さを増しました。フランスや中国など一部の国はビアフラを支援しましたが、多くの国はナイジェリア政府を支持しました。イギリスとソ連は、アフリカにおける影響力や植民地時代の歴史的経緯からナイジェリア政府を支援しました。また、ビアフラ側には白人傭兵、ナイジェリア側には東ドイツのパイロットや西欧からの傭兵が参加していました。

降伏と悲惨な結果

弾薬や装備の不足、そして深刻な飢餓に苦しむビアフラは、1970年1月9日、オジュク中佐が亡命し、降伏しました。戦争の結果、少なくとも150万人以上の死者が出たと推定されています。飢餓、病気、戦闘による死者が多数を占め、「骨と皮しかない子供たちの腹部だけが異様に膨らんでいる」という悲惨な報道は世界に衝撃を与え、ビアフラは飢餓の代名詞となりました。

戦争後の状況とその後

戦争後、ナイジェリア政府は国民和解の方針を採りましたが、イボ人に対する差別や偏見は完全に解消されたわけではありません。ビアフラ戦争は、民族対立、経済格差、大国間の政治的思惑が複雑に絡み合った結果発生した悲劇であり、その歴史は現在もなお、アフリカにおける民族紛争の危険性を示唆しています。戦争を題材とした映画『ティアーズ・オブ・ザ・サン』なども制作され、現在も世界中で語り継がれています。戦争の記憶は、平和と人権の重要性を再認識させる貴重な教訓となっています。

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