ビッカース VC10

ビッカース VC10：英国が生んだ長距離ジェット旅客機の物語

ビッカース VC10は、イギリスの航空機メーカー、ビッカース・アームストロング社（現BAEシステムズ）が開発した長距離ジェット旅客機です。その独特なデザインと、旅客機としては短命に終わったものの、後に空中給油機として長く活躍した経緯について詳しく見ていきましょう。

開発の背景

1950年代、ビッカース社は、自社のヴァリアント爆撃機をベースとした長距離ジェット輸送機V1000と民間旅客機VC7の開発を進めていました。しかし、ヴァリアントの構造上の問題が発覚し、1955年にはV1000の仮発注がキャンセル、VC7もBOAC（英国海外航空）の関心を引けず、計画は中止されました。BOACは当初、世界初のジェット旅客機であるデハビランドコメットを運用していましたが、航続距離の短さや座席数の少なさ、そして相次ぐ事故により運航が停止。その後、改良型のコメット4やボーイング707を発注しましたが、これらの機体もBOACの要求に完全には応えられませんでした。コメット4は旧式化しており、ボーイング707は南アジアやアフリカ方面の中距離帝国間ルート（MRE）には過大で、特に高高度の空港での離着陸性能に課題がありました。そこで、BOACは1957年、複数の航空機メーカーにMREルート向けのジェット旅客機の開発を打診し、その一つがビッカース社でした。

VC10の誕生

ビッカース社が提案したVC10は、高温・高地下での離着陸性能を追求し、当時最先端のアビオニクスを満載した機体でした。特徴的なT字尾翼と4発リアエンジン方式は、シュド・カラベルを拡大したかのようにも見え、高亜音速巡航を可能にするピーキー翼型を採用していました。また、エンジンを主翼から切り離したことで、主翼全体を高揚力装置に利用でき、優れたSTOL性能を実現しました。しかし、開発費の高騰と計画の遅延は致命的で、セールス面では成功したとは言えませんでした。また、尾部にエンジンを集中配置したため、低〜中バイパス比ファンジェットしか搭載できず、騒音が大きいという短所もありました。

短命に終わった旅客機としての歴史

計画開始時から50機の受注があったものの、初飛行は1962年7月と遅れ、追加受注も伸び悩みました。ライバルのボーイング707やダグラスDC-8に遅れること数年、1964年4月にようやくBOACのロンドン-ラゴス線に就航しました。その後、胴体をストレッチしたスーパーVC10も登場しましたが、生産は1970年に終了。イギリス国内向けに55機、イギリス連邦諸国を中心とした中東やアフリカの航空会社に9機が引き渡されたに留まりました。オイルショックの影響もあり、収益性の悪いスタンダードVC10は1970年代には花形路線から姿を消し、スーパーVC10も1980年代初頭に運航を終了し、旅客機としてのVC10は全機引退しました。

空中給油機としての活躍

一方、VC10はイギリス空軍で空中給油機として新たな活躍の場を見つけました。1960年代、イギリス空軍は戦略輸送機の仕様書を発行し、VC10の改造機を採用。胴体をコンビタイプを基本とし、エンジンはスーパーVC10、翼は新設計され、1965年に初飛行。VC10 C Mk. 1（VC10 C1）と命名されました。その後、1978年にBAC社との契約により、既存のVC10を空中給油機に改造する計画が開始されました。C1は給油ポッドを追加したのみのC1K、K2、K3、K4へと発展。VC10は胴体にエンジンを搭載しているため、主翼に給油ポッドを搭載しても被給油機がエンジン排気に巻き込まれる心配がなく、給油しやすいという利点がありました。2006年には、北朝鮮の核実験に関連して、大気中の放射性物質の観測・採取のために、RAF所属のVC10が沖縄県のアメリカ空軍嘉手納基地に飛来したこともありました。

退役と後継機

2013年9月25日、最後のVC10がブライズノートン基地からブランティングソープ飛行場へ最終飛行を行い、退役。イギリス空軍はVC10とロッキードトライスターの任務を、次世代空中給油機エアバス A330 MRTT「ボイジャー」に引き継ぎ、VC10の長い歴史に幕を下ろしました。

派生型

以下に主な派生型を示します。

ビッカース V.C.10 Type 1100: 原型機、後に1109に変更。
BAC VC10 Type 1101: BOAC発注、35機オーダー中12機製造。
BAC VC10 Type 1102: ガーナ航空発注、コンビタイプ。3機製造。
BAC VC10 Type 1103: ブリティッシュ・ユナイテッド航空発注、2機製造。BUAは1機の1102を発注。
BAC VC10 Type 1104: ナイジェリア航空2機発注、キャンセル。
BAC VC10 Type 1106: イギリス空軍向けの輸送機VC10 C.1、14機製造。
BAC VC10 Type 1109: レーカー航空へのリースのため原型機1001を改称。
BAC スーパー VC10 Type 1150: スーパー VC10。
BAC スーパー VC10 Type 1151: BOACからのスーパーVC10発注、22機注文中17機製造。
BAC スーパー VC10 Type 1152: スーパーVC10コンビタイプ、BOACが13機発注キャンセル。
BAC スーパー VC10 Type 1154: イーストアフリカ航空発注、5機製造。
VC10 C. 1K: 13機のVC10 C.Mk 1を改造、イギリス空軍の空中給油機兼輸送機。
VC10 K. 2: Type 1101を改造、イギリス空軍の空中給油機。
VC10 K. 3: Type 1154を改造、イギリス空軍の空中給油機。
VC10 K. 4: Type 1151を改造、イギリス空軍の空中給油機。

主要諸元（VC10 Type 1101）

運航乗員：3名
乗客：151席（最大）
全長：48.36 m
全幅：44.55 m
高さ：12.04 m
翼面積：264.9 m2
動力：ロールス・ロイスコンウェイ Mk 540 ターボファンエンジン × 4発
推進力：21,000 lbf (93 kN)×4
最大離陸重量：141,520 kg
機体重量：63,278 kg
最大速度：933 km/h
航続距離：9,412 km

主要諸元（VC10 C.1）

乗員：4名
全長：48.36 m (158 ft 8 in)
全幅：44.55 m (146 ft 2 in)
全高：12.03 m (39 ft 6 in)
翼面積：272.3 m2 (2,932 ft2)
動力：ロールス・ロイスコンウェイ RCo.43 ターボファンエンジン × 4
空虚重量：64,510 kg (142,220 lb)
最大離陸重量：146,060 kg (322,000 lb)
最大速度：935 kph (580 mph / 505 kt)
上昇限度：11,580 m (38,000 ft)
航続距離：11,600 km

参考文献

RAF - VC10 (英語)
The Vickers (BAC) VC10 (英語)

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