ビッグ・ジェミニ

ビッグ・ジェミニ (Big Gemini)

ビッグ・ジェミニ、通称「Big G」は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が検討していた多目的軌道輸送システムの一つとして、1969年8月にダグラス社から提案された大型有人宇宙船の計画です。

この構想は、NASAのジェミニ計画を基盤とし、その規模を拡大・発展させたものでした。主な目的は、将来建設されるであろう宇宙ステーションへ、9名から最大12名の人員と必要な補給物資を効率的に輸送することにありました。軍事および民間の両分野での利用が想定されていましたが、最終的にビッグ・ジェミニ計画は実現せず、その後の軌道輸送システムとしてはスペースシャトルが実用化されることになります。

計画の背景

1960年代のアメリカでは、宇宙ステーションの建設構想が本格的に検討されており、それに伴う軌道上への人員や物資の輸送手段の確保が喫緊の課題となっていました。ビッグ・ジェミニは、こうしたニーズに応えるために提案されたもので、ジェミニ宇宙船を大型化・改良することでこの輸送任務を担わせようというアイデアでした。

この計画では、アポロ計画で培われた技術や、当時開発が進められていた有人軌道実験室（MOL）計画から得られる知見や成果が活用される予定でした。これにより、既存技術をベースに、より高性能で多機能な宇宙輸送船を実現しようとしていたのです。

設計概要

ビッグ・ジェミニ宇宙船は、乗員が搭乗する円錐形の再突入部と、その機体後部に位置する推進器および貨物室スペースという構成でした。初期の設計では9名の乗員を収容可能とし、改良型では最大12名まで搭乗できる見込みでした。機体後部の貨物室には、宇宙ステーションへ運ぶ補給品などを搭載します。

打ち上げには、当時開発中あるいは使用されていた強力なロケットが検討されました。具体的な候補としては、サターンIB、タイタンIIIM、そしてサターン INT-20（S-IC/S-IVB）といったロケットが挙げられています。ただし、サターンIBは後に候補から外されました。

計画の調査段階では、宇宙ステーションへの人員輸送と帰還を目的としたジェミニ派生型の輸送船として、予備的な設計が行われました。特に、地上への着陸・回収・再利用を可能とする設計が重要な要件として求められていました。

この要件に基づき、二種類の派生型が定義されました。一つは「Min-Mod Big G」と呼ばれ、ジェミニBに小規模な改良を加えた9人乗りのタイプです。もう一つは「先進型 Big G」と称され、外形寸法はMin-Modと同じながら、より新しい補助システムを導入した12人乗りの、より発展的な概念を持つ機種でした。

宇宙船の再突入部とその下部に位置する逆噴射部・貨物室部は、直径が419センチメートルと、従来のジェミニ宇宙船と比較して大幅に大型化されていました。

着陸方式についても詳細な検討が行われました。再利用性を高めるため、パラグライダーのような滑空装置を用いて陸上に着地する方式が候補の一つとして研究されました。Northrop-Ventura社がこのパラグライダー式滑空装置の分析を担当し、その結果を文書にまとめています。着陸時の衝撃を軽減するシステムとしては、乗員モジュールの底部にそり式の着陸装置が備えられ、乗員は着陸の衝撃に備えて仰向けの姿勢をとる設計でした。

宇宙船の軌道上での運用を支える推進機能は、一つの統合された液体燃料推進システムが担う計画でした。このシステムは、軌道の変更、他の宇宙機とのランデブー、機体の姿勢制御、そして軌道離脱のための逆噴射といった、多岐にわたる役割を担う予定でした。また、打ち上げ時における緊急脱出システムも搭載され、これはアポロ宇宙船に搭載されたシステムを大型化したものとなる見込みでした。これらの技術的な分析に加え、運用支援に関する分析や開発スケジュールの策定も進められました。

計画の中止

ビッグ・ジェミニ計画は、いくつかの要因によって最終的に開発が中止されました。最大の要因の一つは、この計画が技術的基盤としていた有人軌道実験室（MOL）計画が、提案の直前である1969年に中止されたことです。さらに、1970年代に入ると、ベトナム戦争の影響などによりNASAの予算が大幅に削減されました。こうした情勢変化の中で、高コストが見込まれるビッグ・ジェミニのような新規開発プロジェクトは優先順位が下がり、最終的に計画は打ち切られることとなりました。

主要仕様

ビッグ・ジェミニの主要な設計仕様は以下の通りです。

- 乗員数: 9人から12人
- 全長: 11.5 メートル
- 最大径: 4.27 メートル
- 居住空間体積: 18.7 立方メートル
- 総重量: 15,590 キログラム (約34,370 ポンド)
- ペイロード: 2,500 キログラム (約5,500 ポンド)
- 検討された打ち上げロケット: タイタン 3M、サターン IB、サターン S-IC/S-IVB

ビッグ・ジェミニ計画は実現しませんでしたが、その構想は後の宇宙輸送システム開発、特にスペースシャトル計画へと引き継がれる要素を含んでいました。宇宙ステーションへの人員・物資輸送という明確な目的を持った大型有人宇宙船の設計案として、宇宙開発史における興味深い一ページを占めています。

（参考文献：Encyclopedia Astronautica、NASA公開資料など）

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