ビハインド・ブルー・アイズ

ザ・フー「ビハインド・ブルー・アイズ」：静と動が織りなす心の葛藤

「ビハインド・ブルー・アイズ」（Behind Blue Eyes）は、イギリスのロックバンド、ザ・フーが1971年に発表したアルバム『フーズ・ネクスト』に収録された楽曲です。アメリカをはじめとする数か国でシングルカットされ、アメリカでは34位を記録しました。

楽曲の特徴

この曲の最大の特徴は、静と動の対比が鮮やかな点です。アコースティックギターによるマイナーコードのアルペジオで静かに幕を開け、悲しげな雰囲気が漂う第2バースまで続きます。しかし、そこから一転、激しいハードロックサウンドが炸裂し、聴く者を圧倒します。そして最後は、再び冒頭のテーマに戻り、静かに幕を閉じます。この劇的な展開は、聴く者の心を強く揺さぶります。

制作背景

この曲は、ピート・タウンゼントによって作詞作曲されました。1970年6月9日、『トミー』ツアー中、コロラド州デンバーでのコンサート後、ファンの女性から誘惑を受けたタウンゼントは、自身の信仰するメヘル・バーバーの教えを思い出し、誘惑を断ち切りました。そして、ホテルに戻り、孤独の中でこの曲を書き上げたと言われています。

ロックオペラ『ライフハウス』との関連性

「ビハインド・ブルー・アイズ」は、『フーズ・ネクスト』に収録されている他の楽曲と同様、未完に終わったロックオペラ『ライフハウス』を構成する楽曲の一つでした。オペラの中では、悪役として登場するブリックという男の視点から歌われています。当初、タウンゼントは、主人公ボビーの宿敵ジャンボが自身の過ちを悔いる歌だと語っていましたが、後にボビーの弟子であり、彼を裏切るブリックの歌だと主張を変えました。

レコーディング秘話

この曲は1971年3月、ニューヨークのレコード・プラント・スタジオで初めて録音されました。このバージョンには、アル・クーパーがオルガンで参加しています。その後、同年5月から6月にかけて、ロンドン、バーンズのオリンピック・スタジオで行われたセッションで再度録音されました。この曲のレコーディング当日、ロジャー・ダルトリーは愛犬を事故で失うという悲劇に見舞われましたが、悲しみを乗り越え、レコーディングに臨んだと言われています。

シングル化見送り

「ビハインド・ブルー・アイズ」は当初、「無法の世界」に続くアルバムからのシングル第2弾としてリリースされる予定でしたが、タウンゼントが「この曲の感受性がファンの期待するザ・フー像からあまりにもかけ離れている」として、イギリスでのシングル化は見送られました。しかし、ダルトリーは、ザ・フーで最も好きな作品として、この曲を挙げています。

多様なバージョン

タウンゼントがアコースティックギター1本で弾き語りしたデモ・バージョンが、彼のソロ・コンピレーションアルバム『スクープ』（1983年）に収録されています。1995年にリリースされた『フーズ・ネクスト』リミックス/リマスターCDには、上記のレコード・プラントで録音されたバージョンが収録されました。また、『スクープ』に収録されたデモに、オーケストラの伴奏を加えた新バージョンが、『The Lifehouse Chronicles』（2000年）に収録されています。ザ・フーのコンサートでも頻繁に披露されており、『フーズ・ラスト』（1984年）や『ジョイン・トゥゲザー』（1989年）など、複数のライブ作品に収録されています。

リンプ・ビズキットによるカバー

2003年には、リンプ・ビズキットがこの曲をカバーし、アルバム『リゾルツ・メイ・ヴァリー』に収録しました。シングルとしてもリリースされ、アメリカでは71位と振るわなかったものの、チェコとスウェーデンでは1位、ドイツ、デンマーク、ノルウェーでは2位を記録するなど、ヨーロッパ各国で大ヒットとなりました。

「ビハインド・ブルー・アイズ」は、ザ・フーの音楽性を深く掘り下げた、隠れた名曲と言えるでしょう。静と動が織りなすドラマティックな展開と、内省的な歌詞は、聴く者の心を捉え、忘れられない感動を与えてくれます。

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