ビフザード

ビフザード：ペルシア絵画の巨匠

ビフザード（1455年？ - 1530年代）は、ティムール朝からサファヴィー朝にかけてのイランで活躍した、イスラム世界を代表するミニアチュール画家です。その革新的な作風は、後世のペルシア絵画に多大な影響を与えました。フサイン・バイカラは彼を「第二のマニ」と称え、その才能を高く評価しました。

生涯

ビフザードの生涯には不明な点が多く、出生や死亡年も正確には分かっていません。ヘラートで生まれ、幼くして両親を亡くし、宮廷[[画家]]ミーラク・ナッカーシュに養育されました。彼はピール・サイイド・アフマド・タブリーズィーら著名な画家に師事し、フサイン・バイカラやミール・アリー・シール・ナヴァーイーの後援を受け、芸術家としての才能を開花させていきました。

フサインから才能を認められたビフザードは、ミーラクの後任として宮廷[[画家]]兼図書館長に任命されました。生涯のほとんどをヘラートで過ごし、結婚はしませんでした。聖者アブドゥッラー・アンサリのハーンカーで質素な生活を送りながら、芸術活動に専念しました。

ティムール朝が滅亡し、ヘラートがシャイバーニー朝に占領された後も、彼は町に留まりました。1510年にサファヴィー朝がヘラートを占領すると、イスマーイール1世の庇護を受け、1514年には王子タフマースブの教師となります。1522年にはサファヴィー朝の宮廷工房長に就任し、1529年に工房を首都タブリーズに移しました。タブリーズでは、トゥルクマーン派の画家スルターン・ムハンマドと共に、新たな絵画様式の創出に貢献しました。

1530年代、ビフザードはタブリーズで生涯を閉じました。

作風

ビフザードの作品は、肖像画、風俗画、風景画、歴史的事件、書物の挿絵など多岐にわたります。サアディーの『果樹園』、フェルドウスィーの『シャー・ナーメ』の挿絵は、彼の代表作として知られています。

彼は、ペルシア絵画の伝統的な手法を再編し、後進の画家たちに新たな方向性を示しました。細部へのこだわり、卓越した発想と技術は、他の追随を許しませんでした。彼の作風は、ヘラート時代とタブリーズ時代でやや異なるとされていますが、大きな変化はありません。『果樹園』の写本が、作風の差異を示す基準となっています。

ビフザードは、ペルシア絵画に写実主義の要素を取り入れました。それまで表情の乏しかった人物画に感情を与え、より人間味あふれる表現を追求しました。繊細な線と鮮やかな色彩、そして線遣いによる自然な筋肉の動きや表情の描写は、彼の作品の特徴です。限られた空間の中で、建築物や戦闘場面の構図に工夫を凝らし、緻密に配置された人物像は、観る者を魅了します。彼の作品は、自由闊達なトゥルクマーン派の描写とは対照的に、控えめで理性に訴えかける表現が用いられています。

ビフザードは、自身の作品に署名を記す習慣を定着させました。しかし、自筆の署名は少なく、後世の書家によるものが多いとされています。また、彼の作品を騙った贋作も多く存在します。真作と断定できる作品は多くありませんが、1488年制作の『果樹園』の写本の挿絵は、数少ない真作の一つです。

『果樹園』に収録されている「ユースフとズライハー」は、ペルシア絵画の傑作として高く評価されています。この作品において、ビフザードはジャーミーの抒情詩を参考に、ユースフの受難を表現するために建物の間取りを再構築しました。複雑な間取りはユースフの追い詰められた状況を、閉ざされた扉は建物からの脱出の困難さを象徴的に表しています。

ビフザードは、技術の発展のために様々な実験を試み、装飾性の高い絵画も制作しました。ニザーミーの『ハムセ』写本の挿絵では、平塗りの色彩パターンによって画面に躍動感を与え、統一性を持たせています。

肖像画は、元来ペルシア絵画においては活発な分野ではありませんでしたが、ビフザードは多くの肖像画を手がけました。この背景には、イタリア人画家ジェンティーレ・ベリーニの影響があったと考えられています。彼の描く人物像は、細い線で写実的に描写され、衣服は鮮やかに装飾されています。

後世への影響

ビフザードは、同時代、そして後世の人々から高く評価されました。ムガル帝国の創始者バーブルは、彼の人物画の顔のバランスの悪さを指摘しましたが、全体としてはその才能を認めていました。

ビフザードの作品、そして彼に師事した弟子たちは、シャイバーニー朝、オスマン帝国、サファヴィー朝におけるミニアチュールの発展に大きな影響を与えました。タブリーズで彼と共に活動した若い画家たちは、彼の作風に新たな要素を加え、ミニアチュールをさらに発展させていきました。ヘラート時代の弟子であるシャイフ・ザーデは、ブハラに赴き、師の流れを汲む肖像画を完成させました。彼の伝統を受け継ぐブハラ派の画家たちは、中国の水墨画の影響が強いサマルカンド派の画家とは対照的に、ペルシア的な要素が強い作品を残しました。

ビフザードは、ペルシア絵画の歴史において、最も重要な画家の一人として、その名を永遠に刻んでいます。

もう一度検索