ピアノソナタ第1番 (シューベルト)

ピアノソナタ第1番 ホ長調 D 157

フランツ・シューベルトが1815年に作曲したピアノソナタ第1番 ホ長調 D 157（作品番号としてはD 154も関連付けられることがある）は、彼の初期のピアノソナタ群に属する重要な作品です。しかし、この作品は標準的なピアノソナタが持つ通常4つの楽章構成のうち、終楽章が書かれないまま未完に終わっています。

このソナタはシューベルトの生前には発表されることはなく、長らくその存在は知られていませんでした。作曲者の死後70年以上が経過した1888年になって初めて、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版され、世に知られることとなりました。

以下に、この作品の各楽章について詳述します。

曲の構成

第1楽章：アレグロ・モデラート (Allegro moderato)

ホ長調、2分の2拍子で書かれた、ソナタ形式による楽章です。冒頭から両手のユニゾンが多く用いられており、全体的に華やかな性格を持っています。第一主題は、アルペジオとそれに続く下降音階が組み合わさって形成されます。一方、第二主題は、左手のアルベルティ・バスの上で、装飾音符を伴う律動的な旋律として提示されます。この楽章は、若々しいエネルギーと明確な構成感覚を示しています。

第2楽章：アンダンテ (Andante)

ホ短調、8分の6拍子のロンド形式による楽章です。この楽章はシチリアーノのリズムに基づいた、落ち着いた雰囲気を持つ緩徐楽章となっています。どこか憂いを帯びた旋律が特徴的で、前の楽章の華やかさとは対照的な、内省的な雰囲気を湛えています。静かで美しい楽章であり、聴く者に穏やかな感動を与えます。

第3楽章：メヌエット：アレグロ・ヴィヴァーチェ (Menuetto: Allegro vivace)

ロ長調、4分の3拍子で書かれた、複合三部形式による楽章です。実質的にはスケルツォとして機能しており、活発で力強い性格を持っています。楽章は短い序奏部を持たず、主和音による力強い響きで直ちに開始されます。主部（ロ長調）は躍動的ですが、中間部のトリオはト長調に転じ、対照的に穏やかで繊細な四分音符の繰り返しが特徴的です。この楽章はスケルツォとしての性格を強く打ち出しており、ソナタの後半部分を勢いづける役割を果たしています。

なお、この第三楽章が複合三部形式によるスケルツォであるという点には議論があります。当時の標準的なピアノソナタ構成においては、終楽章にスケルツォが置かれることは一般的ではありませんでした。このため、ハワード・ファーガソンをはじめとする多くの現代の音楽研究者は、この第三楽章をソナタの本来の終わりとは見なさず、やはり第四楽章が構想されながら未完成に終わった作品であるという見解を支持しています。

このように、ピアノソナタ第1番 D 157は、シューベルトの初期作品におけるソナタ様式の探求を示すものですが、未完という形で残されたことによって、その後の彼の創作の可能性をも示唆する作品となっています。死後長らく忘れられていましたが、現在ではシューベルトのピアノ音楽を理解する上で欠かせない作品の一つと認識されています。

外部リンク

ピアノソナタ第1番 ホ長調 D 157, 154の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
ピアノソナタ第1番 - ピティナ・ピアノ曲事典

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