ピアノソナタ第14番 (モーツァルト)

ピアノソナタ第14番ハ短調 K. 457

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが手掛けた数多くのピアノソナタの中で、短調で書かれた作品はわずか二つしかなく、そのうちの一つがこのハ短調ソナタ K. 457です。モーツァルトのピアノソナタ群の中でも際立って情熱的かつ劇的な性格を持ち合わせており、後の世代、特に若き日のベートーヴェンに強いインスピレーションを与えたと伝えられています。

作曲と出版

このソナタは1784年にウィーンで生み出されました。モーツァルト自身の作品目録には、同年10月14日に完成したとの記録が残されています。翌年の1785年には、同時期に作曲された『幻想曲ハ短調 K. 475』と組み合わされ、「ピアノフォルテのための幻想曲とソナタ作品11」としてウィーンのアルタリア社から出版されました。この記念碑的な作品は、モーツァルトの楽譜を写譜していたフォン・トラットナーの妻であり、モーツァルトのピアノの弟子でもあったテレーゼ・トラットナー夫人に献呈されています。

自筆譜の発見

このソナタと幻想曲の自筆譜は長年にわたりその所在が不明でしたが、1990年7月にアメリカ・フィラデルフィアで奇跡的に発見されました。同年11月21日にはロンドンのサザビーズで競売にかけられ、驚くべき88万ポンドという価格で落札されたことでも話題となりました。発見された自筆譜を詳細に分析した結果、出版された楽譜とはテンポの指定やいくつかの細部において差異が見られることが明らかになっています。

楽曲構成

第1楽章：モルト・アレグロ
ハ短調、4分の4拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。冒頭はオクターブのユニゾンによる力強い旋律で始まりますが、すぐに弱音での応答や半音階的な下行音形が対比され、雰囲気が変化します。経過部を経て変ホ長調で提示される第2主題と小結尾へと続きます。展開部では、主に第1主題の冒頭動機が執拗に展開されますが、経過部の旋律がヘ短調で現れる箇所もあります。再現部では経過部が省略され、代わりにナポリ調である変ニ長調の短いエピソードが挿入される点が特徴的です。第2主題と小結尾はハ短調で再現されます。コーダでは第1主題がカノン風に扱われ、最後は低音の蠢くような動きで閉じられます。

第2楽章：アダージョ
変ホ長調、4分の4拍子による美しいアダージョ楽章で、両端の劇的な楽章との鮮やかな対比を成しています。形式はロンド形式ですが、エピソードやコーダが比較的長く、複雑な構成を持っています。優しく歌うような主要主題は、繰り返されるたびに繊細な変奏が加えられていきます。最初の挿入部（第1エピソード）は変ロ長調で書かれ、その冒頭の音の動きは主要主題と関連性が見られます。第2エピソードは変イ長調です。コーダは第1エピソードとの関連が指摘されています。再発見された自筆譜の分析から、この楽章のみ五線紙やインクの質が他の楽章と異なることが判明しており、モーツァルトが当初このアダージョ単独の作品として構想し、後にソナタへと拡張した可能性が示唆されています。

第3楽章：アレグロ・アッサイ
ハ短調、4分の3拍子で書かれた変則的なロンドソナタ形式の楽章です。大まかにはA-B-A-C-B-A-C-コーダのような構成を取ります。第1主題（A）は最初は物憂げな雰囲気を持ちますが、突然劇的な高まりを見せます。第2主題（B）は変ホ長調で現れ、その後半は第1楽章の小結尾の動機と関連性があります。ほぼ同じ形で第1主題が繰り返された後に挟まれる挿入部（C）は、ヘ短調からト短調へと転調し、非常に短いながらも印象的です。再現部ではハ短調で第2主題が先に提示されるという珍しい順序を取ります。その後、第1主題がフェルマータによる中断を伴って再現されますが、そこには強い不安感と緊張感が漂います。その緊張が爆発した後、エピソードがさらに凝縮された形で再現されると、そのままコーダへと突入し、最後は激しい二つの和音によって力強く締めくくられます。

幻想曲ハ短調 K. 475との関連性

このソナタが完成した数か月後に作曲された『幻想曲ハ短調 K. 475』は、同じハ短調という調性や、楽想においてソナタと強い繋がりを持っています。この二つの作品が「ピアノフォルテのための幻想曲とソナタ」としてセットで出版されたことから、モーツァルトがこれらを一体の作品として構想していたという説があります。しかし、発見された自筆譜では、ソナタと幻想曲で使用されている五線紙やインクなどが異なっていることが判明し、別個の作品として書かれた可能性も指摘されています。

こうした背景もあり、現代の演奏会や録音では、この二つの作品を続けて演奏することが非常に一般的です。時には、アタッカ（attacca：切れ目なく次の楽章へ）の指示のように、幻想曲からソナタへと間を置かずに移る演奏も行われ、二つの作品の間に存在する親和性の高さが強調されています。

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