フェルマータ

フェルマータとは

フェルマータ（伊: fermata）は、楽曲において音符や休符の長さを延長する指示を示す音楽記号です。一般的には、音符や休符、または縦線（終止線を含む）の上や下に、半円と点を組み合わせた記号「𝄐」を付加することで表されます。この記号は、演奏者に記譜された音符や休符の長さを、演奏者の解釈によって延長させることを意味します。

概説

フェルマータは、音符や休符だけでなく、縦線（終止線も含む）にも付与されることがあります。縦線に付与された場合、一般的には、記譜上に存在しない休符が挿入されることを意味します。しかし、前の音からタイ（スラー）で繋がっている場合や、ピアノのペダル指示がある場合には、音を保持する時間が延長されることを示します。

名称

フェルマータは、イタリア語で「停止」を意味する「fermata」に由来します。音楽においては、時間の流れを一時的に停止させ、音楽に区切りをつける役割があります。初期の楽譜では、終止線や終結音にフェルマータの原型となる記号が用いられ、音楽の終わりを示す意味合いがありました。

イタリアでは、フェルマータを俗に「corona（コロナ＝円冠）」と呼ぶこともあります。フランスでは「point d’orgue（ポワンドルグ）」と呼ばれます。これは、オルガンの音栓を操作する際に、音を伸ばしながら変更していたことに由来します。ただし、ドイツ語で「Orgelpunkt（オルゲルプンクト）」と言うと、持続低音を意味するため注意が必要です。

記号の変遷

フェルマータの記号は、当初は一定しておらず、写譜家によって装飾的に描かれることもありました。初期のフェルマータは、記譜された時間を延長する意味合いよりも、単に「終わり」を示す印として用いられていました。その使用箇所も、曲の終わり、組曲の各構成曲の終わり、楽句の終わりなど様々でした。

特にコラールにおいては、各楽句の終止にフェルマータが用いられていましたが、その解釈については長らく議論されてきました。近年の研究では、楽句ごとに適切な終止感を持たせる程度であり、大幅な時間延長を意味するものではないという見解が有力です。

歴史

バロック音楽以前のフェルマータは、作品の終結音であっても、顕著な時間延長を意味するものではありませんでした。しかし、古典派音楽以降になると、フェルマータは付与された音符や休符の時間を明確に延長させる意図で使用されるようになりました。これにより、音楽に強調や変化を与えることが可能になり、特にカデンツァ（即興的な楽句）においては重要な要素となりました。

フェルマータの延長度合いについては、記譜上の時間の約4倍という目安がありますが、実際にはテンポによって調整されます。テンポが速い場合は長めに、遅い場合は短めに演奏される傾向があります。また、フェルマータが頻繁に現れる場合には、全体のバランスを考慮して延長時間を調整する必要があります。

フェルマータの最中には、リタルダンドされた拍節が潜んでいると解釈され、一般的には1〜4小節分の延長が適切とされています。また、フェルマータの後にはア・テンポに戻るのが一般的です。

多声音楽においては、各声部にフェルマータがきちんと付与されるのが理想とされていますが、実際には作曲家によって徹底されていないこともあります。また、出版譜においても、その徹底度が十分ではない場合があります。

後期ロマン派以降になると、フェルマータに「lungo（長く）」や「poco（少し）」などの指示が加えられるようになり、延長時間やニュアンスをより細かく表現できるようになりました。また、フェルマータの記号自体も、半円だけでなく、三角や四角の形状が用いられるようになり、その容積によって延長時間を区別するようになりました。

現代音楽においては、フェルマータの記号や解釈は多様化しており、作曲家によって独自の使用法が見られます。そのため、楽譜の冒頭に記号の一覧が記載されている場合が多くあります。また、秒数を記入して延長時間を指定する方式もありますが、演奏者の負担やテンポ感のずれから、あまり好まれていないのが現状です。

文字コード

フェルマータの記号は、以下の文字コードで表すことができます。

U+1D110 𝄐
U+1D111 𝄑

参考文献

『伊和中辞典』（小学館）
『標準音楽辞典』（音楽之友社）
『現代音楽の記譜』（全音楽譜出版社）
『ニューグローブ世界音楽大辞典』英語版

関連項目

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