ピアノソナタ第18番 (シューベルト)

ピアノソナタ第18番 ト長調 作品78, D 894

フランツ・シューベルトが1826年に完成させたピアノソナタ第18番は、ト長調、作品78、D 894のカタログ番号を持ち、一般には『幻想（Fantasie）』の愛称で広く知られています。この作品はシューベルトが28歳の頃に書かれ、その後に続く同形式の作品は、彼の晩年を飾る3つの傑作ソナタ（第19番、第20番、第21番）のみであることから、円熟期に入った彼の作曲技法が如実に表れた、規模も内容も豊かな大作と位置づけられます。

このソナタは、シューベルトが生涯のうちに出版を見届けた最後のピアノソナタでもあります。同時代の作曲家であり評論家でもあったロベルト・シューマンは、この作品に対して「形式と構想において最も完璧である」と最大限の賛辞を送っています。

愛称の由来

『幻想』という愛称は、シューベルト自身が付けたものではありません。このソナタが初版として出版された際、楽譜の出版元であったトビアス・ハスリンガーが、特に第1楽章の性格に着目し「幻想曲」と記したことから、次第にこの愛称で呼ばれるようになりました。

楽曲構成

本作は全4楽章で構成されており、全体の演奏時間は約40分です。主調であるト長調は、一般的に室内楽で用いられることが多く、穏やかで柔和な響きを持つ調ですが、このソナタには同時代の巨匠ベートーヴェンの影響を感じさせる力強い書法も随所に認められます。

第1楽章：モルト・モデラート・エ・カンタービレ

ト長調、8分の12拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。発想記号「ごく節度を持ってそして謡うが如く」が示す通り、穏やかで歌謡的な性格を持っています。冒頭に提示される主題に続き、第2主題は優雅なシチリアーノ風の旋律が現れます。提示部が繰り返された後、展開部ではト短調やニ短調などを経て、短調による高揚感が生み出されます。特徴的なのは、再現部に入る前に展開部の中で第2主題が変ロ長調で左手に、同時に第1主題が右手に出現し、二つの主題が統合される作曲技法の巧みさです。再現部は定型通りに進み、コーダは最弱音で静かに閉じられます。

第2楽章：アンダンテ

ニ長調、8分の3拍子。形式についてはソナタ形式またはロンド形式と解釈されることがあります。前の楽章が速いテンポではなかったため、緩徐楽章としての役割を果たしつつ、全体のバランスを保っています。重音が多用され、雄大な響きを生み出しています。第1主題は単純ながら変奏を伴って繰り返され、楽章全体、ひいてはソナタ全体の統一感に寄与しています。

第3楽章：メヌエット：アレグロ・モデラート - トリオ

ロ短調から中間部のトリオでロ長調に転じる、4分の3拍子の複合三部形式です。メヌエット主部では、同一の重音が執拗に繰り返されるため、従来のメヌエットのような優雅さよりも、ある種の頑固さや内省的な雰囲気を感じさせます。対照的に、トリオはロ長調に変わり、愛らしい旋律が奏でられます。

第4楽章：アレグレット

ト長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）のロンド形式で書かれています。ロンド主題は穏やかな右手の旋律を、左手の4対1の同音連打が支えるという特徴的なものです。この左手の同音連打は、前の楽章のメヌエットでも重要な役割を果たしており、ソナタ全体を貫くモチーフとなっています。楽章の途中にはハ長調の活発な部分が現れるほか、ロンド主題を挟んで変ホ長調やハ短調の優雅なエピソードが展開されます。ロンド形式の定石通りに進み、コーダではシンコペーションが印象的な効果を生み出し、最後まで左手の4対1の連打が姿を見せながら曲を締めくくります。

この作品は、シューベルトのピアノソナタの中でも特に優れた完成度を持つものとして、今日でも多くのピアニストによって演奏され、聴衆に親しまれています。

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