ピアノソナタ第3番 (ショパン)

フレデリック・ショパンが作曲したピアノソナタ第3番ロ短調作品58は、彼のピアノソナタ全3曲のうち最後に書かれた傑作です。先行する第2番から5年の時を経て、1844年にノアンにあるジョルジュ・サンドの邸宅で作曲され、翌1845年に出版されました。この作品は、ド・ペルテュイ伯爵夫人エミリー・ド・ペルテュイに献呈されています。

作曲が開始された1844年は、ショパンにとって父ニコラの死という大きな悲しみが訪れた年でした。父の訃報に接したショパンは深い悲嘆にくれ、一時は重病となるほどでしたが、その苦難を乗り越え、約3ヶ月後には本作を完成させています。

先行する有名な第2番が、当時の評論家ロベルト・シューマンによって「無理やりくくりつけたような」構成と評されたのに対し、本作はより古典的なソナタの形式美を保っています。その規模、楽想ともに堂々とした趣を持ち、ショパンのピアノ曲の中でも重要な位置を占めています。ショパンが完成させた3曲のピアノソナタの中で、終楽章の終わりを長調で締めくくるのは、本作だけであるという点も特筆すべき特徴です。

本作品は全4楽章で構成されています。

第1楽章：アレグロ・マエストーソ

ロ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。壮麗な速度記号が示す通り、この楽章は威厳と情熱をもって始まります。力強く決然とした第1主題と、ショパンならではの繊細で優美な第2主題が対比をなし、作曲家の個性が遺憾なく発揮されています。提示部には反復記号がありますが、全体の規模が大きいことから、演奏時間の都合などで反復せずに演奏するピアニストも少なくありません。

第2楽章：スケルツォ：モルト・ヴィヴァーチェ

変ホ長調、4分の3拍子。ショパンのスケルツォは一般的に深刻な内容を持つことが多いですが、この楽章は例外的に軽快で即興的、そしてどこか諧謔味を帯びた性格を持っています。中間部ではロ長調へと転じ、表情を変えます。変ホ長調とロ長調という、遠隔調がエンハーモニックな手法で対置される構造は、フランツ・シューベルトの作品などにも見られる興味深い例です。

第3楽章：ラルゴ

ロ長調、4分の4拍子、三部形式。夜想曲を思わせるような、夢見るように甘美で内省的な緩徐楽章です。中間部では、嬰ト短調から変イ長調へと展開し、これはショパンのピアノ協奏曲第1番の第2楽章との類似が指摘されています。再現部では、左手の伴奏部に特徴的なリズムが加えられるなど、単調にならないよう工夫が凝らされています。

第4楽章：フィナーレ：プレスト・マ・ノン・タント

ロ短調、8分の6拍子、ロンド形式。この壮大なソナタを締めくくるにふさわしい、情熱的で力強い終楽章です。冒頭の和音に続いてすぐに主要主題が提示され、ロンド形式の原則に従って繰り返されます。楽章全体を通して、様々な調への転換がなされますが、特にエンハーモニックな転調が効果的に用いられています。そして、最終的には主調であるロ短調ではなく、同主長調であるロ長調で輝かしく閉じられます。

ピアノソナタ第3番は、ショパンの円熟期の様式と、古典的な構成への回帰が見事に融合した作品であり、今日でも多くのピアニストによって頻繁に演奏され、聴衆を魅了し続けています。

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