ピアノソナタ第5番 (モーツァルト)

ピアノソナタ第5番 ト長調 K. 283

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したピアノソナタ第5番 ト長調 K. 283 (新モーツァルト全集では 189h と付番) は、彼の初期のピアノソナタ群に属する重要な一曲です。この作品は、バイエルンの貴族であったデュルニッツ男爵のために書かれたとされる一連のソナタ群（K. 279からK. 284）のうち、第5番目に位置づけられており、しばしば「デュルニッツ・ソナタ」の一つとして知られています。

作曲背景

このソナタを含む初期の6曲のピアノソナタは、モーツァルトが1774年末にザルツブルクからミュンヘンへ滞在した際に集中的に作曲されました。特に翌1775年に入ってから、これらの作品は短期間のうちに一挙に書き上げられたと考えられています。当時のモーツァルトは19歳で、精力的に作曲活動を行っており、多様な形式や様式を探求していた時期でした。

楽曲の特徴

K. 283は、モーツァルトが再びより大規模な音楽形式に本格的に取り組んだ作品として注目されます。このソナタの最大の特徴の一つは、全3楽章すべてがソナタ形式で構成されている点にあります。これは、同時代の著名な作曲家であるフランツ・ヨーゼフ・ハイドンがソナタ形式の可能性を広げていたことへの、モーツァルトなりの応答や影響を示すものと解釈されることがあります。

また、終楽章が全277小節という規模を持つことも特筆すべき点です。これは、それまでのモーツァルトのピアノ作品や当時の一般的なソナタ終楽章の枠を超えた、かなり拡大された構造であり、後のソナタ様式の発展を予感させる要素と言えます。全体として、このソナタは明るく、流麗でありながらも、後の傑作群につながる構成的な実験や深みを示唆しています。

エピソード

1777年、モーツァルトは母アンナ・マリアと共に、演奏旅行でマンハイムやパリを訪れる途上、父レオポルトの故郷であるアウクスブルクに立ち寄りました。この地でモーツァルトは、名工ヨハン・アンドレアス・シュタインの製作した革新的なフォルテピアノを試弾する機会を得ました。10月17日付で父レオポルトに宛てた手紙の中で、モーツァルトはこの経験について触れ、特にシュタインのピアノで演奏した自身の作品について言及しています。彼は「特に最後のソナタ（K. 283のこととされる）は、シュタイン氏のピアノで演奏したところ、他のどの楽器とも比較にならないほど素晴らしい響きでした」と記し、シュタインのフォルテピアノの優れた音響と自身の楽曲との相性の良さに感銘を受けた様子を伝えています。このエピソードは、当時の楽器の進化と作曲家の創作との関係を示す興味深い事例です。

構成

このソナタは全3楽章で構成され、全体の演奏時間は約14分です。

第1楽章 アレグロ
ト長調、4分の3拍子。活気に満ちたソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ
ハ長調、4分の4拍子。抒情的で穏やかなソナタ形式。
第3楽章 プレスト
ト長調、8分の3拍子。軽快で快活なソナタ形式。規模が大きい。

関連項目

デュルニッツ・ソナタ
ピアノソナタ第1番 ハ長調 K. 279 (189d)
ピアノソナタ第2番 ヘ長調 K. 280 (189e)
ピアノソナタ第3番 変ロ長調 K. 281 (189f)
ピアノソナタ第4番 変ホ長調 K. 282 (189g)
ピアノソナタ第6番 ニ長調 K. 284 (205b)

外部リンク

ピアノソナタ第5番 ト長調 K. 283 (189h)の楽譜) - 国際楽譜ライブラリープロジェクト (IMSLP)

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