ピアノソナタ第6番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト：ピアノソナタ第6番 ニ長調 K. 284 (205b)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した初期のピアノソナタ群に属する作品、《ピアノソナタ第6番 ニ長調 K. 284》は、「デュルニッツ・ソナタ」として知られる6曲の連作の一つです。このソナタは特に注目されることが多く、時にこの作品単独で「デュルニッツ」と呼ばれることもあります。

作曲の背景

このソナタは1775年の年明けに、モーツァルトがオペラ『偽りの女庭師』K. 196の初演のためバイエルン選帝侯領のミュンヘンに滞在していた時期に生まれました。当時の選帝侯マクシミリアン3世ヨーゼフの侍従を務めていたヨハン・マリア・エーメ・フィリップ・クリストフ・フォン・デュルニッツ男爵からの依頼に応じたものです。この依頼が契機となり、モーツァルトは「デュルニッツ・ソナタ」と呼ばれることになる一連の作品群を完成させることになります。

モーツァルトの評価

モーツァルト自身、この第6番ソナタに強い愛着を持っていたようです。彼はこの曲を度々演奏しており、自身の手紙の中でその効果を「比類のない」と評しています。また、作曲からおよそ10年後の1784年には、初期のソナタ群の中からこの作品を選んで単独で出版しました。これは、作曲者自身がこのソナタに特別な価値を見出していたことの証と言えるでしょう。

楽曲の特徴と構成

本ソナタは3つの楽章で構成されており、全曲を通しての演奏時間は約24分とされています。初期の作品でありながら、モーツァルトが新たな表現を模索していた跡が見られます。例えば、第1楽章の一部には、ミュンヘン滞在以前にザルツブルクで既に構想されていた部分があると考えられています。さらに特筆すべきは、終楽章において、モーツァルトのピアノソナタとして初めて短調が導入された点です。

第1楽章：アレグロ

ニ長調、4分の4拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。躍動感のある主題を特徴とし、ソナタ形式の伝統に沿った構成で展開されます。

第2楽章：ポロネーズ風ロンドー：アンダンテ

イ長調、4分の3拍子によるロンド形式の楽章です。「ポロネーズ風」という指示が示す通り、ポーランドの舞曲であるポロネーズを思わせるリズムや性格が付与されています。優雅で落ち着いたアンダンテの速度で演奏されます。

第3楽章：主題と変奏：アンダンテ

この楽章は、モーツァルトのピアノソナタにおける変奏曲形式の最初の例として重要です。ニ長調を主調とし、変奏曲形式で書かれており、一つの主題とそれに続く12の変奏からなります。

冒頭に提示されるアンダンテの主題に対し、リズム、旋律、和声、テクスチュアなど様々な要素が変化させられ、多彩な表情を持つ12の変奏が展開されます。特に第7変奏では主調であるニ長調から平行調のニ短調に転じ、劇的な対比を生み出しています。

楽章の終わりに向かうにつれて、変奏はさらに多様な性格を見せます。第11変奏はアダージョ・カンタービレという遅く歌うような速度で4分の4拍子となり、続く第12変奏は一転してアレグロの速い速度で4分の3拍子に変化します。これらの速度や拍子の変化は、大規模な変奏曲としての構造に変化とクライマックスをもたらしています。

この第3楽章は、12という変奏の数から、第1楽章や第2楽章のそれぞれのおよそ3倍もの長さを持ちます。これは、初期モーツァルトが変奏曲という形式を用いて、いかに多様で広大な音楽世界を構築しようとしていたかを示す好例であり、本ソナタを他の初期作品群から際立たせる大きな特徴となっています。

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