ピアノソナタ第7番 (シューベルト)

シューベルト：ピアノソナタ第7番 変ホ長調 作品122, D 568

フランツ・シューベルトが1817年に作曲したピアノソナタ。彼の死後、1829年に「作品122」として出版された。この作品の大きな特徴は、ほぼ同じ内容を持つソナタが、調性の異なる二つのバージョンで存在することである。当初、シューベルトは変ニ長調（D 567）で作曲を試みたが、これは未完成に終わった。その後、彼は同じ楽想を全音高い変ホ長調に移調し、改作を加えて完成させた（D 568）。なぜこのような改作が行われたのか、その明確な理由は今日まで判明していない。

同一の楽想を持つ作品が、異なる調でそれぞれ現存する例は、シューベルトのソナタにおいては他に類を見ない。この事実は、作曲家が自身の創作過程において、どのように素材を扱い、作品を練り上げていったのかを知る上で極めて貴重な資料を提供している。このため、本作品はシューベルトの研究者にとって重要な位置を占めている。

この記事では、未完の変ニ長調版（D 567）と完成された変ホ長調版（D 568）のそれぞれの構成について解説する。

D 567（変ニ長調）の構成

未完に終わった変ニ長調版は、以下の3つの楽章で構成される。

第1楽章 アレグロ
変ニ長調、4分の3拍子によるソナタ形式。冒頭は「変イ音 - ヘ音 - 変イ音 - 変ニ音 - ヘ音 - 変イ音」というシンプルな旋律が、力強いユニゾンの低音で提示される。属調である変イ長調で提示される第2主題は、対照的に優雅な雰囲気を持っている。展開部は比較的簡潔にまとめられている。

第2楽章 アンダンテ
嬰ハ短調、4分の2拍子。3連符を多用した、静かで叙情的な緩徐楽章である。

第3楽章 アレグレット
変ニ長調、8分の6拍子によるソナタ形式。ロンド形式を思わせる繊細な印象の楽章である。短調と長調の美しい対比に加え、半音階的なパッセージが効果的に用いられた優れた楽章であるが、残念ながら途中で未完成に終わっている。校訂版では、後に完成された変ホ長調版（D 568）の終楽章に基づいて補筆されることがある。

D 568（変ホ長調）の構成

完成された変ホ長調版は、以下の4つの楽章で構成される。

第1楽章 アレグロ・モデラート
変ホ長調、4分の3拍子によるソナタ形式。構成や主題は変ニ長調版とほとんど同じであるが、速度標語が「モデラート」となり、また再現部でのシンコペーション導入など、細部に若干の加筆や変更が見られる。

第2楽章 アンダンテ・モルト
ト短調、4分の2拍子。この楽章も変ニ長調版と概ね共通しているが、調性は嬰ハ短調からト短調へと、同主短調ではなく3度高い調に変更されている。速度標語も「モルト」が付加されている。

第3楽章 メヌエット：アレグレット
変ホ長調、4分の3拍子。特筆すべきは、この楽章が変ニ長調版には存在しないという点である。このメヌエット楽章の追加により、作品は未完版の3楽章構成から標準的な4楽章構成へと規模が拡大された。予想外の転調が多用され、変化に富んだ楽章となっている。中間部（トリオ）は変イ長調で書かれている。

* 第4楽章 アレグロ・モデラート
変ホ長調、8分の6拍子によるソナタ形式。変ニ長調版の第3楽章にほぼ対応しており、未完だった部分が完成されている。速度標語は第1楽章と同様に「モデラート」が付加されている。

このように、シューベルトのピアノソナタ第7番は、二つの異なる調性を持つバージョンが存在するという点で極めてユニークであり、作曲家の創作の一端を垣間見ることができる興味深い作品である。

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