移調

音楽における移調とは

音楽における移調（いちょう）とは、楽曲の調の主音を別の音に移して演奏することを指します。例えば、ハ長調の曲をすべての音を長2度上げてニ長調として演奏することが移調にあたります。

移調楽器について

移調楽器とは、楽譜に書かれた音と実際に演奏される音が異なる楽器のことです。例えば、B♭管のトランペットで「ド」の音を出すと、実際には「シ♭」の音が鳴ります。移調楽器の演奏者は、自分の楽器とは異なる調で書かれた楽譜を、即座に移調して読み、演奏する能力が求められます。この作業は移調読みとして知られています。

鍵盤楽器における移調

ピアノなどの鍵盤楽器では、黒鍵を多く使う調が演奏しやすいとされています。ロマン派音楽のピアノ曲で、調号に嬰記号や変記号が多いのはそのためです。作曲家は、難解な譜面で演奏者に理解されないことを避けるため、演奏しやすいように移調譜を用意することもあります。シューベルトの例がその一つです。

声楽における移調

クラシック音楽では基本的に移調は行われませんが、声楽、特に歌曲においては頻繁に移調が行われます。人の声域は個人差が大きいため、同じ作品でも調性を変えて演奏することがよくあります。そのため、歌曲の楽譜には「高声用」「中声用」「低声用」といった異なる調の移調譜が出版されており、伴奏者には歌手に合わせて移調して演奏する能力が求められます。

移旋と移高

移調と似た言葉に移旋（いせん）がありますが、これは主音の音高を変えずに旋法を変えることを指します。例えば、長調を短調に変えることが移旋の一種です。また、旋法音楽や無調音楽などの非調性音楽においては、「移調」に相当する概念として移高という言葉が用いられます。

邦楽における移調

日本の伝統音楽である雅楽では、かつて陰陽五行説に基づき、調には季節ごとの禁忌がありました。そのため、ある楽曲を禁忌の季節に演奏する際には、移調が行われました。これを渡しものと言います。ただし、厳密に同じ旋律が移されるのではなく、楽器の音域制限などから旋律が変形されることもありました。

近世邦楽では、歌い手の音域によって曲の調が変わることは珍しくありません。三味線、箏、胡弓、琵琶（薩摩琵琶、筑前琵琶を除く）などの楽器は、開放弦に調の主要音を設定するため、移調に合わせて調弦そのものを変えます。例えば、Dを主音とする調の曲を演奏する場合、三味線の調弦はD-A-D（二上りの場合）となりますが、C♯を主音とする調で演奏する場合は、C♯-G♯-C♯となります。尺八や篠笛も同様に、移調に合わせて長さの異なる楽器が使われます。これにより、移調しても楽器演奏の感覚はあまり変わりません。

また、原曲を異なる調弦法で演奏するために移調的な編曲が行われることもあります。例えば、『六段の調』は通常「本調子」で演奏されますが、「二上り」で演奏できる編曲も存在します。これは完全五度上への移調とみなすことができます。

脚注

関連項目

* 転調

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