ピアノ五重奏曲 (エルガー)

エルガー：ピアノ五重奏曲 イ短調 作品84

エドワード・エルガーが作曲した「ピアノ五重奏曲 イ短調 作品84」は、彼の創作活動の後期にあたる1918年の夏、サセックス州の自然豊かな避暑地ブリンクウェルズにおいて生み出されました。この情感豊かな作品は、『マンチェスター・ガーディアン』紙で音楽批評を担っていたアーネスト・ニューマンに献呈されています。

エルガーはこの五重奏曲に取り組んでいた時期に、ヴァイオリン・ソナタ（作品82）と弦楽四重奏曲（作品83）も同時並行で作曲しており、これらは彼の重要な室内楽作品として「ブリンクウェルズの夏」の産物と称されることがあります。エルガーの親しい友人でありヴァイオリニストであったW・H・リードは、これらの作品が作曲された際の周囲の「静かで平和な環境」が音楽に深く影響を与えていると語っています。また、エルガー夫人であるキャロライン・アリスは、これらの室内楽の完成を耳にして、夫が「素敵な新作を書いた」と喜びを書き記しています。

作品は以下の三つの楽章から構成されています。

1. Moderato – Allegro
2. Adagio
3. Andante – Allegro

各楽章はそれぞれ10分以上の演奏時間を要するため、エルガーの室内楽作品の中では最も大規模なものとなっています。特に中心となる第2楽章アダージョでは、深みのある瞑想的な世界が描かれています。

本作の初演は、作曲翌年の1919年5月21日に実現しました。演奏を担ったのは、ピアノのウィリアム・マードック、ヴァイオリンのアルバート・サモンズとW・H・リード、ヴィオラのレイモンド・ジェレミー、そしてチェロのフェリックス・サルモンドという、当時のイギリス楽壇を代表する顔ぶれでした。これらの演奏者の多くはエルガーが厚い信頼を寄せていた音楽家であり、例えばチェリストのサルモンドはエルガーのチェロ協奏曲の初演者であり、ヴァイオリニストのサモンズはヴァイオリン協奏曲の史上初の全曲録音を行った人物として知られています。

「ピアノ五重奏曲」の最初の商業録音は、ピアニストのハリエット・コーエンとストラットン四重奏団によって行われました。録音作業は1933年10月に開始されましたが、その直後にエルガーは重篤な病に倒れてしまいます。完成したばかりのテスト盤は、急いで病床のエルガーのもとへ届けられました。彼はその演奏を聴いて大変喜び、この出来事が、録音ディレクターであったフレッド・ゲイズバーグがエルガーへのクリスマスプレゼントとして他の四重奏曲の録音を企画するきっかけとなったと言われています。

この作品が広く演奏され、レパートリーとして定着するまでには、初演から長い時間がかかりました。しかし近年では、その音楽的な価値が再認識され、活発に演奏される機会が増え、数多くの録音もリリースされています。『グラモフォン』誌のような有力音楽媒体では、アリス夫人の言葉を引き合いに出しながら、作品の魅力を高く評価しています。ハリエット・コーエンによる歴史的な録音以降、ジョン・オグドンとアレグリ四重奏団による名盤など、多くの優れた録音が知られ、現在もこの作品は多くの音楽愛好家に親しまれています。

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