ピアノ協奏曲第1番 (ベートーヴェン)

ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲したピアノ協奏曲の一つで、ハ長調、作品15として知られています。実際にはベートーヴェンが手掛けたピアノ協奏曲の中で3番目に完成した作品ですが、先行して完成していた「ピアノ協奏曲第2番」よりも先に楽譜が出版されたため、「第1番」の作品番号が与えられました。

概要

この協奏曲の初稿は1795年3月に完成しました。初演は同月29日、ウィーンのブルク劇場で行われ、ベートーヴェン自身がピアノ独奏を務め、アントニオ・サリエリがオーケストラを指揮したと伝えられています。その後、作品には何度か手が加えられ、特に大きな改訂版は1800年4月2日に行われた演奏会で披露されました。この演奏会は、交響曲第1番の初演と同時に行われたことでも知られています。最終的な形は翌1801年に出版されました。

ベートーヴェンは故郷ボンからウィーンに移り住んだ1792年以降、初期のウィーン時代にかけて、後の第2番、当作品、そしておそらく習作と考えられる作品を含め、都合3曲のピアノ協奏曲を作曲しています。このハ長調の協奏曲は、ボン時代から作曲が進められ、後に第2番として出版される変ロ長調の協奏曲よりも後に完成したと考えられています。しかし、出版の順序が逆転したことにより、作品番号と完成順が一致しない結果となりました。

楽器編成

この作品は以下の編成で演奏されます。

フルート1
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット2
ティンパニ
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

曲の構成

全3楽章で構成され、全曲の演奏時間は約35分です。

第1楽章 Allegro con brio (ハ長調、4/4拍子)

協奏的ソナタ形式で書かれた楽章です。明るく快活な性格を持ち、後のピアノソナタ第21番「ヴァルトシュタイン」にも通じるような明朗さがあります。楽章の冒頭主題は、溌剌としたC音の連打と、それを引き継ぐ上昇音階が特徴的です。

初期作品であるため、モーツァルトの協奏曲からの影響が強く感じられますが、展開部で遠隔調である変ホ長調を効果的に用いる点には、ベートーヴェンらしいロマン派的な要素の萌芽を見ることができます。カデンツァは伝統的な形式に従い、演奏者の選択に委ねられています。ベートーヴェン自身も3種類のカデンツァ（うち1つは未完成）を残しており、他にもカール・ライネッケによるものが知られています。自身の強い意志をカデンツァにまで貫き、楽譜に書き込むようになるのは、後のピアノ協奏曲第5番「皇帝」においてのことです。

再現部へ移行する直前のピアノ独奏部分は、非常に高度な演奏技巧を要求されます。通常は、右手のみのオクターヴによるグリッサンドで演奏されることが多い箇所です。

また、172小節目のピアノ右手の3拍目にあるF音（第6オクターヴ）には、楽譜の版によって異同があります。自筆譜ではナチュラルが付されておりFナチュラルと読めますが、これは当時のピアノの音域制限を考慮したものか、あるいは単なる書き損じなのかは定かではありません。しかし、再現部の対応するフレーズとの調性的な整合性を考えるとシャープ（Fシャープ）で演奏するのが自然であるため、初版以降の多くの楽譜ではFシャープとして記譜されています。一方で、ピアニストの中にはアンドラーシュ・シフのように、自筆譜に従いFナチュラルで演奏すべきだと主張する者もいます。

第2楽章 Largo (変イ長調、4/4拍子)

三部形式による、静かで落ち着いた性格の緩徐楽章です。随所にピアノによる華麗な音階パッセージが織り込まれており、繊細な美しさを持っています。この楽章ではフルートとオーボエが休みとなり、クラリネットが旋律楽器として重要な役割を果たします。

第3楽章 Rondo Allegro (ハ長調、2/4拍子)

ロンドソナタ形式による、楽しげで活気に満ちた終楽章です。ピアノ独奏とオーケストラが生き生きとした掛け合いを展開し、祝祭的な雰囲気を醸し出しています。ベートーヴェン自身によるカデンツァが2箇所（第457小節、第485小節）に用意されていますが、2番目のものは規模が大きいため、実際の演奏では省略されることが一般的です。

楽章の最後、ベートーヴェン特有ともいえるティンパニの連打が特徴的なパッセージを奏でます。これは、打楽器によるソロとしては史上初めて難解な技巧が要求された箇所の一つとされています。

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