ピアノ協奏曲第21番 (モーツァルト)

ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K. 467

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1785年に完成させたピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467は、彼のピアノ協奏曲の中でも特に高い人気を誇る作品です。前作にあたる第20番の短調による劇的な雰囲気とは対照的に、この第21番は長調で書かれ、明るく穏やかな、時に堂々とした響きに満ちています。

この協奏曲は、モーツァルトがウィーンで自ら開催していた予約演奏会のために作曲されました。第20番が完成したわずか1ヶ月後の1785年3月9日に完成し、翌日の3月10日にはウィーンのブルク劇場で行われた演奏会で、モーツァルト自身のピアノ独奏によって初演されています。多忙を極める中で生み出された傑作と言えるでしょう。

『エルヴィラ・マディガン』の愛称

この作品、特に第2楽章は非常に有名であり、その旋律は多くの人々に親しまれています。中でも、1967年のスウェーデン映画『みじかくも美しく燃え』で使用されたことで、その印象的なメロディーは世界中に広まりました。この映画の原題は主人公の女性綱渡り師の名前を冠した『Elvira Madigan』であり、そこから、この協奏曲自体が『エルヴィラ・マディガン』の愛称で呼ばれるようになりました。

編成

この協奏曲は、独奏ピアノに加えて以下のオーケストラによって演奏されます。

フルート：1
オーボエ：2
ファゴット：2
ホルン：2
トランペット：2
ティンパニ
弦五部

楽曲構成

全3楽章で構成されており、一般的な演奏時間は約28分です。各楽章にはカデンツァの挿入箇所（第1楽章と第3楽章）やアインガングが指定されていますが、モーツァルト自身が作成したカデンツァは残されていません。

第1楽章：アレグロ・マエストーソ (Allegro maestoso)
ハ長調、4分の4拍子、協奏ソナタ形式。
オーケストラが威厳のある行進曲風の主題を提示して始まります。独奏ピアノが登場すると、その主題が華麗な装飾を伴って再び現れます。曲は一時的に短調に転じ、ピアノによる非常に技巧的なスケールやアルペッジョが駆け巡る聴きどころを迎えます。その後、新たな調（ト長調）で優雅な第2主題がピアノによって歌われます。提示部後半では、第1主題のリズムに基づきながら、ピアノとオーケストラが対位法的に応答する巧みな書法が見られます。
展開部はホ短調で始まり、主にピアノが主導して様々な調性を巡りながら主題動機を展開させます。
再現部では、まず第1主題が戻り、続いて第2主題が本来の主調（ハ長調）で再現されます。再び第1主題が展開的に扱われた後、提示部で聞かれた流麗な旋律が木管楽器からピアノへと引き継がれます。楽章の終盤にはカデンツァが置かれ、その後冒頭の旋律が静かに回想されながら閉じられます。

第2楽章：アンダンテ (Andante)
ヘ長調、2分の2拍子（alla breve）、三部形式。
この楽章は、この協奏曲の中でも最も有名で愛されている部分です。抑制されたオーケストラに乗って、ピアノが息の長い美しい旋律を奏でます。夢見るような、あるいは瞑想的な静けさに満ちており、その純粋な美しさは聴く者の心を強く捉えます。この楽章の旋律は、上述の『みじかくも美しく燃え』をはじめ、多くの映画やテレビドラマ、コマーシャルなどでBGMとして使用されており、クラシック音楽に馴染みのない人々にも広く知られています。

第3楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ (Allegro vivace assai)
ハ長調、4分の2拍子、展開部のないソナタ形式。
「非常に速く、活発に」と指示されたこの終楽章は、生き生きとした軽快な主題で始まります。ロンド形式の要素も感じさせる快活な楽想が展開され、独奏ピアノとオーケストラが楽しげに掛け合います。音楽は終始、明るく弾むような推進力に満ちており、華やかで晴れやかな雰囲気の中で全曲を締めくくります。

その他の特記事項

特に第2楽章のメロディーは、その人気と美しさから多岐にわたるメディアで用いられてきました。『みじかくも美しく燃え』の他に、映画『スーパーマン リターンズ』などでも効果的に使用されています。このように、この協奏曲、とりわけ第2楽章は、時代を超えて多くの人々に聴き継がれ、愛され続けています。

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