ピアノ協奏曲第3番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによるピアノ協奏曲第3番ニ長調 K.40は、彼の作品リストにおいて、ピアノを独奏楽器とする協奏曲としては3番目に位置づけられるものです。これは、先行する第1番（K.37）や第2番（K.39）と同様に、モーツァルト自身のオリジナル作品ではなく、当時活躍していた他の作曲家たちの楽曲を基に、彼が編曲を施した協奏曲群の一つとして知られています。

作曲の背景

この第3番も、モーツァルトが10代前半に作曲した初期のピアノ協奏曲シリーズ（K.37, K.39, K.40, K.41）に含まれます。これらの協奏曲は、彼がヨーロッパ各地への長期旅行からザルツブルクへ帰郷した直後の1767年7月に、相次いで書かれました。特に第3番は、第2番（K.39）に引き続いて完成されています。これらの初期協奏曲の制作は、若きモーツァルトが、当時の最新の音楽様式や作曲技法、特に協奏曲というジャンルの書法を学ぶための重要な過程であったと考えられています。

楽曲構成と原曲

ピアノ協奏曲第3番 K.40は、標準的な3楽章構成を取っています。各楽章は、それぞれ異なる作曲家の作品から素材を得て、モーツァルトがピアノと管弦楽のために再構築したものです。

第1楽章： アレグロ・マエストーソ、ニ長調、4分の4拍子。この楽章は、レオンツィ・ホーナウアーのソナタ作品2の1の第1楽章を原曲としています。
第2楽章： アンダンテ、イ長調、4分の2拍子。こちらは、ヨハン・ゴットフリート・エッカルトのソナタ作品1の4の第1楽章を基にしています。
第3楽章： プレスト、ニ長調、8分の3拍子。終楽章の素材は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ（大バッハの息子）がチェンバロのために作曲した小品集の中の一曲、「ボヘミア人（La Boehmer）」Wq.117の26から採られています。モーツァルトは、この活気ある舞曲風の楽章に、その音楽的な性格を強調するかのように、トランペットを効果的に加えた可能性が指摘されています。

これらの原曲を選択し、管弦楽とピアノのための協奏曲として再構成する作業は、モーツァルトが後の自身の創作活動に繋がる重要な経験を積む機会となりました。

楽器編成

この協奏曲は以下の楽器で演奏されます。

独奏ピアノ
オーボエ 2
ホルン 2
トランペット 2
ヴァイオリン 2部
ヴィオラ
バス（チェロ、コントラバス、ファゴットなど）

当時の初期の協奏曲としては比較的多めの編成で、特に終楽章でのトランペットの使用が特徴的です。

楽曲詳細

全曲の演奏時間は、おおよそ13分程度です。

第1楽章は、堂々とした「アレグロ・マエストーソ」の速度指示を持ち、ニ長調の華やかな開始を飾ります。
第2楽章は、対照的に「アンダンテ」と指定されたイ長調の緩徐楽章で、落ち着いた抒情的な雰囲気を持っています。
* 第3楽章は、「プレスト」によるニ長調の急速な終楽章で、8分の3拍子による軽快な音楽が特徴です。

カデンツァに関しては、モーツァルト自身が作曲したカデンツァ（ケッヘル目録補遺624番、新モーツァルト全集番号626aII-c）は、第1楽章のもののみが現存しています。第2楽章および第3楽章については、モーツァルト自作のカデンツァは確認されていません。特に終楽章にはカデンツァが付されていませんが、これは原曲であるC.P.E.バッハの小品の形式や性格に起因するものと考えられています。

手稿譜

このピアノ協奏曲第3番の手稿譜は、モーツァルトが同時期に編曲した他の初期ピアノ協奏曲（第1番 K.37、第2番 K.39、第4番 K.41）の手稿譜と共に、現在ポーランドのクラクフにあるヤギェウォ大学図書館に丁重に保管されています。

総じて、ピアノ協奏曲第3番 K.40は、モーツァルトが大家たちの作品から学び、自身の創作スタイルを確立していく過程を示す、貴重な初期の学習作品であり、当時の協奏曲の形式やオーケストレーションへの彼の関心を示す証拠となっています。

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