ピアノ四重奏曲 (シューマン)

シューマン：ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47

ロベルト・シューマンが1842年に作曲した「ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47」は、彼の室内楽作品の中でも特に重要な位置を占める傑作です。この年は、後に「室内楽の年」と呼ばれるほど、シューマンが精力的に室内楽に取り組み、多くの優れた作品を生み出した時期にあたります。本作は、同年に完成させたピアノ五重奏曲（作品44）に引き続いて書かれており、その充実ぶりがうかがえます。

概要と作曲の背景

作品47は、1842年10月24日にスケッチが始まり、同年11月26日には全曲が完成するという驚異的なペースで作曲されました。具体的には、スケッチに1週間ほどを費やし、その後の約3週間で楽章を仕上げています。作曲後、1843年6月には改訂が加えられ、同年8月にはライプツィヒの出版社、フリードリヒ・ウィストリング社から出版されました。

初演は2段階で行われています。まず、作曲家自身の自宅にて、1843年4月5日に非公開で演奏されました。公式な公開初演は、翌1844年12月8日にライプツィヒで開催され、妻であるクララ・シューマンがピアノを担当。ヴァイオリンをフェルディナント・ダヴィッド、ヴィオラをニルス・ゲーゼ、そしてチェロをカール・ヴィットマンが務めました。この初演メンバーからも、当時の音楽界を牽引する一流の演奏家たちが集められたことが分かります。

この「室内楽の年」には、他にも3曲の弦楽四重奏曲（作品41）や『幻想小曲集』（作品88）といった優れた室内楽作品が誕生しており、作品47はこれらの創作群と密接に関連しています。

楽章構成と特徴

作品47は全4楽章構成で、全体の演奏時間は約28分です。

第1楽章：ソステヌート・アッサイ - アレグロ・マ・ノン・トロッポ - ソステヌート - アレグロ

変ホ長調、ソナタ形式で書かれています。冒頭のゆったりとした12小節の序奏には、楽章全体、さらには作品全体を関連付ける重要な動機が提示されます。この序奏の雰囲気や動機操作は、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を思わせるとも指摘されています。

第2楽章：スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェ

変ロ長調。非常に生き生きとしたスケルツォ楽章です。弦楽器とピアノによる快速なスタッカートの走句が特徴的で、シューマンの交響曲第2番の第2楽章にも通じるような、疾走感あふれる音楽が展開されます。

第3楽章：アンダンテ・カンタービレ

変ロ長調。この楽章は非常に叙情的で、歌謡的な旋律が印象的です。構成的には三部形式とも変奏曲形式とも解釈できる多面性を持っています。特筆すべきは、楽章の後半部分でチェロに特殊な調弦（スコルダトゥーラ）が要求されている点です。最も低いC線が半音低いB♭音に指定されており、これにより通常よりも豊かな響きや特殊な音色効果が得られます。

第4楽章：フィナーレ、ヴィヴァーチェ

変ホ長調。大規模なソナタ形式によるフィナーレは、輝かしく、希望に満ちた楽想に溢れています。冒頭は全員のユニゾンで力強く始まり、やがてヴィオラ、ピアノ、そして第1ヴァイオリンによるフガートが導入されるなど、対位法的な技法も効果的に用いられています。コーダにおいても再びフガートが登場し、華麗に曲を締めくくります。

1829年のハ短調作品

シューマンは若き日の1829年にも、ハ短調のピアノ四重奏曲を作曲しています。しかし、これは当時の彼にとって「若書き」の作品と位置づけられ、ピアノパートが完全に仕上げられることなく、未完のまま出版には至りませんでした。長い間その存在は知られていたものの、草稿は1974年にボン大学の図書館で発見されるまで日の目を見ませんでした。

この若書きの作品には、ベートーヴェンやシューベルトといった先行する作曲家からの影響が指摘されています。発見後、複数の音楽研究者によって補筆・校訂版が作成されました。

特に有名なものとして、シューマン研究家のヴォルフガング・ベッティヒャーによる補筆版があり、これは1979年に初演され、アンドレ・プレヴィンらが1981年に録音を残しています（演奏時間約19分）。また、ヨアヒム・ドラハイムによる補筆版もあり、こちらは2005年2月にシュトゥットガルトで初演されました。ドラハイム版は、ベッティヒャー版と比較して特に第1楽章の構成が拡張されており、演奏時間も約32分と長めになっています。

このハ短調作品も全4楽章の構成を採っています。

第1楽章：アレグロ・モルト・アッフェトゥオーソ、ハ短調
第2楽章：メヌエット：プレスト、ト長調
第3楽章：アンダンテ、ト短調
第4楽章：アレグロ・ジュスト―プレスト、ハ短調―ハ長調


作品47は、シューマンの円熟期における室内楽の傑作として、今日でも頻繁に演奏・録音されています。一方、若き日のハ短調作品の発見は、シューマンが長年にわたってピアノと弦楽器のための四重奏という編成に関心を寄せていたことを示す興味深い事例と言えるでしょう。

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